戻る(ここをクリック)


10.東電福島第一原発事故:
   想定された「想定外」で起きた重大災害


 東北地方太平洋沖地震で生じた14メートル超の津波と地震に直撃され、炉心溶融(メルトダウン)寸前となり、大量の放射性物質を放出し、レベル7相当の重大原発災害を起こした。
 現在も放射性物質の放出が続き収束の目途は立っていない。
 原発事故は、一度発生したら被害は長年、広範囲に及ぶ。
 チェルノブイリ事故では25年後も土壌汚染は解消されていない。

  1. 周辺の被害状況
    (1) 初期の放射性物質の放出量はチェルノブイル原発の初期放出量(520万テラベクトル)の20〜50%
    (2) 現在の放射性物質の一日の放出量 : 154テラベクトル
    (4) 半径20キロの立ち入り禁止区域、半径30キロは避難区域
    (5) 避難民は14万2千人

  2. 各原発の状況
    (1) 1号機と3号機 : 原子炉建屋が水素爆発で大破
    (2) 2号機 : 炉心格納容器破損、高濃度放射能汚染水の流出
    (3) 4号機 : 点検のため休止中、原子炉建屋火災、使用済燃料一時貯蔵プール破損
    (4) 5号機と6号機は点検のため休止中

  3. 事故の発生状況
    津波と外部電源喪失のために給水ポンプが停止し、1〜3号機の原子炉内の水が蒸発し、空気中に露出した燃料が急速に加熱されて25〜50%が破損、崩落し炉心溶融が始まった。炉内ガスを放出して内部に海水を注入して、直前で大爆発を防止した。使用済燃料一時貯蔵プールは冷却水の給水停止の結果、内部の水は急速に蒸発し、空気中に露出した燃料が急速に加熱されて破損、崩落しメルトダウンのリスクが高まり、外部からの給水で冷却を続けている。
    1〜4号機の使用済燃料一時貯蔵プールから発生した水素ガスと1号機の炉心から逃がした水素ガスが爆発して1号機、3号機の原子炉建屋が大破、レベル7に相当する大量の放射能物質を放出した。
    2号機は地震による原子炉本体配管部の損傷が生じて、高濃度放射能汚染水の流出が続く。

  4. 事故の直接原因
    (1) 地震と津波の直撃で外部電源が遮断された以後、非常用バックアップ電源も停止
    バックアップ用発電機のジーゼルエンジンは津波が引いたときに冷却用の海水を取水できなくなり、その後津波が海水取水口を土砂で塞いだため、オーバーヒートして停止。また、14メートル高の津波は原発敷地1メートル以上に達して燃料タンク等を破損した。
    (2) 給水ポンプ停止後、炉内の水は急速に加熱されて蒸発、燃料は空気中に露出し破損した。炉内の水蒸気の放出が遅れたため、外部からの冷却水(海水)の注入が遅れ、燃料の破損、崩落が進行した。放出決定時期の遅れと作業時間も長すぎた(5時間以上)。
    (3) 地震の衝撃による関連機器、配管等の破損。

  5. 事故の根本原因
    (1) 国が発行した「原発耐震指針」の想定が甘すぎる
    日本独自の古い地震理論に基づいて作成され、地震の実態にそぐわない。また、過去の大災害の実績、記録などを評価していない。
    (2) 福島第一原発の津波想定高さは6.5m、今回の津波の高さは14m超を記録。
    ・1896年の明治三陸沖地震は30m、1933年の昭和三陸地震の津波は40mを記録。
    1990年頃から日本列島を取り巻くプレートの動きが活発化し始め、近年中に大地震と大津波が予想されるので、至急対応策を講ずべきとの国内外の研究者達の警告を無視。(1995年兵庫県南部地震、1997年新潟県中越沖地震、1999年駿河湾地震など)
    (3) 原発のシビアアクシデント(過酷事故)対策が甘く、また空文化している。
    ・外部電源や非常用発電機の電源機能を長時間失う事態などのシビアアクシデント(過酷事故)対策を想定していなかった。また設計段階の国の指針でも電源を長時間喪失する事態を「考慮しなくてもよい」としている。
    ・炉内への緊急冷却水注入の指示命令系統が決まっていない。爆発防止のための大気放出作業の点検、訓練の不徹底、さらに窒素ガス注入などの基本知識の欠如。
    (4) 旧式の沸騰水型原子炉は電源と冷却機能を失うと短時間で燃料の破損から炉心溶融に結びつくという欠陥がある。(スリーマイル島原発事故、チェルノブイル原発事故)
    (5) 原発のリスクを理解し、十分に訓練された管理者と技術者が電力会社、国双方に不在。海外の原発事故情報等を入手して、現有機器の欠点を改修する体制と仕組みが弱体。
    ・米国NRCが20年前に、福島原発に起きた事故について警鐘を鳴らしていた。
    (6) 電力会社、国共に、採算面を重視して、安全面を「割り切って」軽視してきた
    (7) 地震と津波が多発する日本列島の弱点を無視して海岸線沿いに原発を作った

  6. 福島原発事故後の国と電力会社の対応
    (1) 経産省原子力安全・保安院は電力会社に対して非常用電源確保などの緊急安全対策をまとめて4月中旬までに講じるよう指示。なお、4月25日現在、原子炉を安全に休止するための十分な発電能力(数千KW)を有する非常電源装置は北海道電力泊原原発に1台、東京電力柏崎刈羽原発に1台の計2台のみ。
    (2) 斑目原子力安全委員長は、4月22日の衆議院予算委員会で、2007年2月の浜岡原発運転差し止め訴訟の静岡地裁での証人尋問で、「非常用発電機」や「制御棒」などの重要機器が複数同時に機能喪失することまでは想定していない理由を問われて、「割り切った考え。すべて考慮すると設計ができなくなる」と述べたことに対し、「割り切りを間違えた」「個人的に謝罪する」と述べました
    (3) 斑目委員長は4月27日の衆院決算行政委員会に参考人として出席し、福島原発事故に関しては、安全委が示してきた(原発の安全審査の)指針類に足りないことがあったのは明らか。抜本的な見直しを約束する。事故拡大を防げなかったのは、私の非力に尽きると反省の言葉。
    (4) 原子力安全委員会は4月28日に原発周辺にある断層の影響を再検討することなど、経済産業省原子力安全・保安院に求めた。
    (5)中部電力は、福島原発事故を受けて、3月23日付きで津波対策用に高さ15メートルの防波壁の新設、ポンプの防水壁設置、非常用電源を高地に移すなどの対策を発表。工期2年間。