リチウムイオン電池、まだイケる EVで500km走行へ

1回の充電で東京―大阪間に相当する500キロメートルを走れるリチウムイオン電池技術の開発が活発だ。積水化学工業の技術は突破のメドがたち、旭化成も近づいた。いずれも既存の電極を使うことができ、2020年代前半に実用化する見込みだ。経済産業省は電池の性能をフルに使い切る技術開発を支援する。世界で電気自動車(EV)化の流れが加速しており、課題だった走行距離が大幅に伸びれば、リチウムイオン電池が主役の時代はまだまだ続きそうだ。

フル充電で500キロメートル走行できれば、ガソリン車の性能に匹敵する。経産省などは普及の条件の一つとみており、2030年の達成を目標に掲げる。EVが急速に普及する中国は走行距離が150キロメートルに満たない車種への補助金を打ち切り、長い車種を増額した。

リチウムイオン電池は1991年に商品化、ノートパソコンやビデオカメラなどに使われた。2009年に量産型EVに採用された。フル充電で走行できる距離は200キロメートルほどだった。10年代初め、当時の技術で500キロメートル走行の達成は難しく、30年ごろに全固体電池など次世代電池に切り替わるとみられていた。

次世代電池の開発は世界で活発だが、まだ技術的な課題は多い。一方、リチウムイオン電池の技術開発が進み、500キロメートル突破が現実味を帯びてきた。研究者らは「さらに10年くらいはリチウムイオン電池を使い続けられる」と予想する。

リチウムイオン電池はプラス(正)とマイナス(負)の電極間をリチウムイオンが行き来することで、電気を発生したり充電したりする。容量を増やすには、電極に蓄えられるイオンを増やしたり、内部の電気抵抗を減らして電子を通りやすくしたりする必要がある。

積水化学が開発したのは正極に使う技術で、混ぜる炭素材料の構造を工夫して電気を流れやすくした。正極の中で電子が通り抜ける道を広げ、従来の10倍ほど電子が進みやすくなる。発生した電流を多く取り出せるほか、電極が壊れにくくなって耐久性が向上する。

正極を分厚くしてリチウムイオンをより多く取り込めるようになる。実験では電池の容量が3割ほど向上した。走行距離を現在の400キロメートルから500キロメートルを超す水準に伸ばせる。21年に部材として販売する計画だ。

旭化成は負極に酸化ケイ素を混ぜることで容量を2割ほど増やした。炭素系材料を使う負極にケイ素(シリコン)系の物質を混ぜると、リチウムイオンをため込みやすくなり、容量を増やせる。しかし、一部のイオンを捉えたまま放出しなくなる問題があった。負極にあらかじめイオンを注入して捉える部分を働かないようにすることで、リチウムイオンの取り込みと放出がスムーズに進むようにした。数年後の実用化を目指す。

従来にない電極材料を使う研究も進む。横浜国立大学の藪内直明教授はパナソニックと共同で、フッ素を混ぜた正極を開発した。電極内での電子のやり取りに金属だけではなく酸素も使えるようになり、容量が2倍になった。住友化学はアルミニウムを使う負極の開発を進め、容量を2.5倍に高める目標を掲げる。

経産省は19年度から、リチウムイオン電池をムダなく使い切ることを可能にする技術開発を進める。発火事故などを防ぐため、電池は上限よりも小さい容量で使っている。残量を正確に測定できるセンサーの開発に助成し、使用可能量を増やす。来年度予算に2億5千万円を計上し、23年までの実用化を目指す。

日本はリチウムイオン電池で世界を席巻したが、11年以降は特許出願が減っている。中国は大学や企業などからの出願が増え、15年には日本と中国が全体の3分の1ずつを占める状況になった。走行距離を伸ばすため、電池の容量を大幅に増やす技術開発が進んでおり、中国からの出願はさらに増える見込みだ。

nikkei.com(2018-12-22)