ホンダ、FCVの心臓部を全て米国生産にホンダと米ゼネラル・モーターズ(GM)は米国時間1月30日、FCV(燃料電池車)の心臓部となる燃料電池システムを生産する合弁子会社を設立したと発表した。2020年をめどに量産を開始し、2社がそれぞれ発売する次世代FCVに同一のシステムを搭載する。2013年に始まった両社の提携のフェーズは、「共同開発」から「共同生産」へと1段階進むことになる。
会社名はフューエルセルシステム・マニュファクチャリング(FCSM)。投資総額は8500万ドル(約96億円)で、両社が折半する。工場は新設せず、米ミシガン州ブラウンズタウンにあるGMの既存バッテリーパック工場内に新ラインを設置するにとどめる。 ホンダは生産子会社の設立に伴い、燃料電池システムの国内生産から撤退する。2016年3月に日本国内でリース販売を始めたFCV「クラリティ フューエル セル」用の燃料電池は、現在は栃木県高根沢町の生産企画統括部で生産している。撤退の時期は未定だ。 ホンダとGMは2013年7月、燃料電池に関する提携で合意。燃料電池システムと水素貯蔵技術の共同開発を続けている。ホンダ米国法人の神子柴寿昭社長は30日の記者会見で「(現行の燃料電池システムと比較して)大幅なコスト削減を実現した」と成果を強調した。 共同生産の狙いが量産によるコスト削減にあるのは明らかだ。ホンダの八郷隆弘社長は昨年10月の日経ビジネスの単独インタビューで「GMとやっている燃料電池システムの次期型の開発は、やっぱり多分に数としてのメリットをやらなきゃいけないなと感じている」と明かしていた。
量産に伴い、2020年時点で新たに100人を雇用する見込み。全てGMが雇用して生産子会社に出向させる予定で、ホンダ側の雇用はゼロだ。 GMはEVとFCVのどちらに本腰? 記者会見で神子柴社長は「『需要のあるところで生産する』という考え方に基づいて、約40年前から米国内での生産を行っている」と前置きした上で、次のように“アピール”した。 「こうした取り組みによって、米国内で販売するクルマの大多数が米国生産されている。そして今回も新たな燃料電池システムを米国内で生産したいと考えた」 FCVはホンダやトヨタ自動車が次世代環境車の主流として位置付け積極的に開発を推進してきたが、欧米勢のEV(電気自動車)シフトの波に飲まれようとしているとの指摘もある。 GMも、EV投入を積極的に進めている1社だ。2016年には航続距離383kmの小型車「ボルトEV」を発売。子会社の独オペルは同年9月のパリモーターショーでボルトをベースにした小型車「アンペラ」を公開した。航続距離は500km以上で、2017年春にも発売する予定だ。EVの弱点だった航続距離の問題は既に解消されつつある。
30日の記者会見で壇上に立ったGMのマーク・ロイス上級副社長は「懐疑的な意見もいまだにあるが、この発表を機に燃料電池(時代)の到来を告げるのは間違いない」と語った。 GMがEVとFCVのどちらを次世代環境車の主役にするかを決めきれずにいるようにも見える。世界販売「1000万台クラブ」のトヨタと似た課題を抱えていると言えるだろう。 ホンダの“変わり身”は今後も続くか ホンダはGMとの合弁会社設立に先立って、昨年12月には米グーグルを傘下に持つ米アルファベットの自動運転開発子会社ウェイモとの提携を発表したばかり。 今年1月に米ラスベガスで開かれた家電見本市「CES」では、ソフトバンクと共同開発した「感情エンジン」を搭載するプロトタイプを世界初公開。AI(人工知能)を使って、運転者の表情や声の調子からストレス状況を判断するほか、嗜好を読み取って運転ルートなどを提案する。他にも、米VISAと共同開発した、クルマに乗ったままガソリンスタンドなどで支払いができる技術も公開した。 CES会場で会見した松本宜之・本田技術研究所社長は「様々な企業とオープンイノベーションを通じて戦略的な連携を図る」と強調。繰り返し「オープンイノベーション」というキーワードを使った。
「ホンダは自前主義から完全に転換した」。CESでの発表を見たあるアナリストはこう見る。GMとの合弁会社設立も、ホンダの“変わり身”の文脈で読み解くことができる。 アジアや北米など世界6地域の自主性を重んじる6極体制のひずみから品質問題などに揺れたホンダ。トヨタやGMなどが異業種との積極的な提携に踏み切る中、ホンダは取り残されているとの指摘もあった。2016年末から始まった“変わり身”は、起死回生へのあがきに映る。 << 島津 翔(日経ビジネス記者) >>
《追記》 nikkeibp.co.jp(2017-01-31) |