ホンダ「も」導入した英語公用化

「オフィスは英語」が日常の風景になるのか

 楽天やユニクロなどが「社内公用語を英語にする」と宣言した2010年当時、「バカな話」と取り合わなかったホンダが英語を公用語にする方針を世界に発信した。社長交代を機にした変心なのか。「オフィスは英語」が日常の風景になるかもしれない。

 「日本人が集まる日本で英語を使うなんて、そんなバカな話はない」

 今から5年前の2010年7月、「グローバル企業のホンダも社内公用語を英語にすべきでは」と記者会見で問われた伊東孝紳社長(当時)は、一笑に付した。

 当時、楽天やユニクロを展開するファーストリテイリングが英語を公用語化する方針を打ち出し社会的な関心を集めていた。この頃はまだ、ほとんどの日本人経営者やビジネスパーソンが、伊東氏と同じ考えだっただろう。

 古くは1992年に当時、三菱商事社長だった槇原稔氏が英語公用語化を唱えたが、槇原氏は「宇宙人」と呼ばれ、全く浸透しなかった。日本企業の英語アレルギーは根強いが、ホンダの決断はそんな日本企業の「英語嫌い」を変えるきっかけになるかもしれない。

 ホンダは6月29日に開示した「サステナビリティー(持続可能性)リポート」の中で英語公用語化を打ち出した。企業が持続可能性を重視した経営を行っていることを開示するこのリポートは、ここ数年、世界の大企業が一斉に出し始めた。

 国連が公認するグローバル・リポーティング・イニシアティブ(GRI)が発行するガイドラインが「世界基準」とされており、開示項目の中には、環境、人権、地域貢献とならび「人材の多様性」や「コミュニケーション力」がある。

ホンダの新社長は新方針

 今回、ホンダはここに「2020年を目標に地域間の会議で使う文書や、情報共有のためのやり取りを英語とする『英語公式言語化』に取り組んでいる」と記した。このリポートは「環境リポート」や「CSR(企業の社会的責任)リポート」と同じように、投資家が投資企業を選ぶ際に参考となる。

 つまりホンダは「持続可能な会社」であることをアピールする上で「英語公用語化が必要」と判断したことになる。もはや「バカな話」とは言っていられなくなってきたのだ。6月17日の株主総会とその後の取締役会を経て八郷隆弘氏が社長に就任した。その直後の公表である点も意義深い。


楽天はTOEIC平均点が800点を突破

 英語公用語化の先駆者である楽天は「全社員(単体)のTOEIC平均点が800点を突破した」と今年6月に公表した。

 三木谷浩史社長が英語公用語化を宣言した2010年の平均点が526点だから、5年で280点近く上積みしたことになる。800点は「職場で発生した問題点について(英語で)議論をしている同僚の話が理解できる」レベルだ。

 同社の外国人比率は2割に迫っており、開発部門では8割が外国人のチームもある。「日本人同士が日本語で話していると、外国人社員が疎外感を持つ」(楽天社員)という状況だ。半ば強引に英語化を進めた三木谷社長は「優秀な外国人を採用しやすくなったし、(英語はイエス・ノーがはっきりしているので)会社全体の意思決定が速くなった」と効能を説く。


 内外の投資家がサステナビリティー(利益を上げるだけでなく社会的責任を果たすことで、将来においても事業を存続できる可能性を持ち続ける)・リポートを重視するようになれば、日本企業でも「会議と資料は英語」の時代が来るかもしれない。

nikkeibp.co.jp(2015-07-09)