これ軽だよね? 巨漢の美容ドクターもホンダのホンキに「ビックリ仰天」
第179回 ホンダ N-ONE【試乗編】
今やホンダは、押しも押されもせぬ「軽メーカー」
最近ホンダの軽は調子が良い。
全国軽自動車協会連合会が発表した2012年の国内軽自動車販売シェアを見ると、ホンダは16.2%と、昨年の8.2%から倍増していることが分かる。
軽の王者ダイハツは首位の座を守り続けたものの、34.1%と昨年の35.8%から微妙にポイントを落としている。次峰スズキも同じくシェアを1.7%落として29.6%。ちなみにスズキが軽のシェアで3割を切るのは、実に19年ぶりのことである。
軽を自社生産せず、OEM(相手先ブランドによる生産)供給を受けて販売する日産のシェアは1.9ポイント下落して7.7%。これで日産は軽3位の座から転落してしまった。今やホンダは押しも押されもせぬ「我が国第3位の軽メーカー」なのである。
さらにさらに、今年の1月の速報値を見れば、ホンダの軽自動車シェアは22.5%である。地域に密着した地縁血縁営業や、何かとビミョーな自社登録+新古車販売など、軽自動車には“独自”の販売方法が絡んでくる。故に、ここからさらにシェアを伸ばすのは生半なことではない。しかし、軽自動車業界は長らく続いた「二強」の時代から、「三強」の時代へと突入したことは間違い無い。
ホンダ社員の皆さまが望むと望まざるにかかわらず、ホンダは今や日本を代表する「軽メーカー」なのである(軽自動車メーカーと呼ばれるのはイヤ、とハッキリおっしゃる社員の方も一部にはおられるが……)。そしてその立役者とも言える存在が、エンジンとプラットフォームを共有して展開する「Nシリーズ」だ。今回試乗したのはそのNシリーズの第3弾「N-ONE」である。
N-ONEは「Nコロ」の愛称で知られた往年の名車、N360をモチーフとしている。
車名の「ONE」には4つの由来がある。
1.「最初の」Hondaの原点の軽「N360」の意思を受け継ぐ
2.「唯一の」他にはない、Hondaならではの軽(One and Only)
3.「個人の」1人の(≒パーソナルな)
4.「みんなの」みんなのための、新しい軽(Everyone)
ホンダの原点に立ち戻って“らしさ”を追求し、圧倒的に多いパーソナルユースの時間を重視したクルマを作りました。そういうわけで、皆さまどうか“ひとつ”と、このような解釈で正しいだろうか。
発売開始は2012年11月1日なので、デビューから3カ月足らず。当欄としては異例の早期試乗である(発売されて間もないクルマは当然街中で見かける機会が少ない。それだけ突撃取材が難しくなるのだ)。オーナーさんが首尾よく見つけられるかどうか、今から不安である。
N-ONEとはどのようなクルマなのか。どうしてそんなに売れるのか。じっくりと味わってきた。とくとご覧あれ。
身長187センチ、体重100キロ……乗れるのか?
今回の試乗は友人の麻生君に付き合ってもらった。彼は東京美容外科という美容整形のクリニックを全国展開するドクターである。前からの約束で食事をしようということになっていたのだが、軽自動車に興味があるということで、今回一緒に乗ってもらうことになったのだ。
F:しかし珍しいね、麻生くんが軽に乗りたいなんて言うのはさ。
麻:最近の軽はすごいって言うじゃないですか。実は私、今まで一回も軽に乗ったことがないので、フェルさんが記事にするなら、ぜひ一緒に乗せてもらおうと思いまして。
F:それならちょうどいいや。散々高級車を乗り倒してきた麻生くんのインプレッションもぜひ聞きたいし。メルセデス男が軽に乗ったらどうなるか(笑)。
麻:メルセデス男ってそんな……(笑)。しかし、そもそも僕でも乗れるんですかね。
F:身長高いもんね。幾つあるんだっけ?
麻:187センチです。体重はちょうど100キロあります。僕が普通に乗れたら、大抵の日本人は楽勝で乗れますよ(笑)。
体重100キロ……。いささかオーバーウェイトではないか。医者の不養生、というところだろうか。彼の言うとおり、その身長、その体重で軽に乗るのは少し厳しいかもしれない。
麻生くんが運転席に乗り込んだ。シートの前後位置を調整し、高さも調整している。N-ONEにはステアリングにチルト機能も備わっているので、ハンドルも高さ位置も調整している。
F:どう?
麻:いいですね。全く問題ないです。うーん、こりゃ驚いた。多少は窮屈な姿勢を強いられるかと思っていたのですが、全然OKです。シートだってほら、一番後ろにはしていませんからね。まだ位置には余裕がある。軽は狭いというイメージがありましたが、そんなことは無いんですね。
身長187センチの巨漢が楽々乗れてしまうのだから大したものだ。室内長、室内幅、室内高の数値はそれぞれ2020×1300×1240ミリ。因みに同じホンダのフィットは1825×1415×1290ミリである。N-ONEはフィットよりも室内長が長いのだ。
メルセデスが軽を作ったらN-ONEみたいになる
シフトを入れると、クルマはスルスルと走りだした。高輪の坂道を登る。
F:どう?
麻:いいですね。すごくいいです。正直こんなにいいとは思いませんでした。剛性感があると言うのかな、全体的にすごくカッチリした感じです。変なきしみ音も聞こえてこないし。
F:そんなにいい? 今日乗ってきたメルセデスのほかには、今は何に乗っているんだっけ。確か前はベントレーに乗っていたよね。
麻:コンチGTですね。あれはもう売ってしまいました。あまり長く乗らなかったな。今はメルセデスのE350オープンにE350のワゴン。これはブルーテックです。
F:おぉ!ディーゼル!
麻:そうですそうです。あれはすごくいいです。あと私はウェイクボードをやるので、濡れた物を載せる用にフォードのエクスプローラー。大阪の実家にはメルセデスのSと一つ前のE500。そういやVWのシャランもこの前買いました。えーとそれから……。
F:ちょ、ちょっと待って。一体何台持ってるのよ。
麻:あと一台です。沖縄にMiniのクーパーS。これもオープンです。向こうで海沿いを屋根開けて走ると気持ちいいですよ。
F:全部で7台。ひぇぇ……。しかもその内4台がメルセデス。うーむ。
麻:やっぱりちゃんとしていますよ。メルセデスは。
F:そりゃそうなんだろうけどさ……。
麻:しかしこのクルマもちゃんとしていますね。もしメルセデスが軽を作ったら、こんな感じになるんじゃないですか。
F:ほお。そこまで言う。
麻:いや、もしかしたらここまではキッチリ作れないかも知れません。Aなんて古くなるとヘロヘロになりますから。
F:ヘロヘロね(笑)。新しいAはうんと良くなっているらしいけど。ところでCVT(無段変速機)はどう。違和感を感じない?
麻:いや、別に気になりません。というか、言われるまで意識していなかったです。そうか。これCVTか。ちょっと強く踏んでみます。
第一京浜に出て少しアクセルを強めに踏む。CVT特有の、回転数と速度がシンクロしない動きが出る。
麻:おー速い速い! 足回りもカッチリしているなぁ。いやこれはすごいですよ。これ軽ですよね。エンジンは660ccなんですよね。
F:そう。660ccの3気筒。ターボがついているけどね。ホンダでは1300cc級の走りを実現、と言っている。
麻:3気筒ですか、バランスも上手くとれているなぁ。奇数筒だとガタガタ揺れそうなものですけど、全く揺れは出ませんね。確かに1300クラスの力は感じます。すごい、すごい。本当にすごい。
大喜びで夜の第一京浜を疾走する麻生君。ポップな外見からは想像しにくいが、N-ONEの走りは実にスポーティーだ。足回りがしっかりしているので、高速道路でも安心して踏んでいける。この辺りはホンダの面目躍如、というところだろうか。
アクセル踏んでCVT、力を入れるよAGA……?
F:最近仕事の方はどうなの。
麻:お陰様で順調です。最近はAGAクリニックにも力を入れています。
F:なにそれ?
麻:AGA。Andro Genetic Alopeciaの頭文字を取ったものです。日本語にすると「男性ホルモン型脱毛症」ですね。
F:え? マジで?ちょうどいいや。今度一回診てもらおう。
麻:フェルさんには必要ないですよ。
F:最近娘にハゲたハゲたと言われるんだ。言われてみれば少し頭のテッペンが……。
麻:ハゲてないです。その頭でハゲとか言ったら、本当のハゲの人に刺されますよ(笑)。
F:頼むよ。一回マジで診てよ。問題がなければ、「医者のお墨付きだ」って娘にも言えるし。
麻:まあ診る分には構いませんけど……。
こちらは別途真剣にリポートしよう。麻生くんは大丈夫と言ってくれたのだが、やはり年頃の娘に「ハゲた」と言われるのは辛いものだ。
背が高いのに、それを感じさせない魅力
1時間ほど都内の道を走り回り、パーキングに戻った。改めてクルマを眺め回す。
麻:改めて見ると結構背が高いクルマですね。乗っているとそれを感じさせませんけど。
F:そう。実は背が高い。でもよく見ないとそれが分からない。この辺りのデザインは上手だよね。屋根を塗り分けてツートンにしているのも、視覚的に効いているかもしれない。
麻:いや、今日はありがとうございました。軽を運転したのは初めてのことなので、とても楽しかったです。楽しかったしとても驚かされました。
F:感想を一言で言うとどんな感じ?
麻:それはもう「ビックリ」です。ビックリ仰天の一言です。ここまでやるか、という感じですね。
F:なるほど。“ビックリ仰天”ね。これは書きやすいなタイトルになる(笑)。
ここで野郎二人のドライブインプレッションは終了。我々はクルマを置いて食事に出かけた。
軽でこの装備! 最強VCAは抜群の安定感
そしてこの試乗の翌日。東京では大雪が降った。地球温暖化なんてウソじゃねーの?と思わせるほどによく降った。
バスは遅れ電車は止まり、天下のアマゾンプレミアムも、さすがに今回ばかりは翌日配送を実現できなかった。幹線道路には動けなくなったクルマが放置され、滑って転んで大分県の方々が何人も救急搬送された。
N-ONEにはVCA、即ちVehicle Stability Assistが標準で装備されている。これはブレーキ時に車輪がロックするのを防ぐABSと、加速時などに車輪が空転するのを防止するTCS。さらに旋回時の挙動を安定させる横滑り抑制を加え、3つの機能をトータルでコントロールする有難い機能だ。これは最強である。
私の住む場所は東京でも雪深いことで知られている。都心よりも明らかに降雪量が多く、しかも長期間それが残る。雪道の後はシャーベット道路。それからしばらくはカチカチに凍結した氷の道……と、一回雪が降るとまるでテストコースのように表情を変えて、住民を恐怖のどん底に突き落とすのである。
N-ONEは雪にも強かった。本当にトコトコと気持ちよく走るのだ。VCAは機能するとチカチカとインパネのインジケーターが点滅する。無理に加速したり急ハンドルを切ったりすればチカチカすることもあるのだが、普通に走っている限りはほとんど出番は無
CVTの“ラバーフィール”も雪とは相性がいいようで、特に神経を使わなくても、いつも通り普通に運転していればOKだ。この日は雪にはまり、タイヤが空転してスタックしてしまったクルマを2台ほど救助した(そのうちの一台はいやいやどうもお陰様で助かりました、とわざわざ止まってあいさつして下さったので、またスタックして再び押すハメになった。こういう時はあいさつ抜きでそのまま行って下さい)。
今回の試乗車はFF仕様車。これが四駆であればなお安心、ということになる。このクルマは本当に良くできている。ホンダのホンキを垣間見た気がする。
あまり弱点が無いなあ……
それでは恒例の○と×を
○ N-ONEの“たいへん良くできました”
1.高性能な走り
高いボディ剛性が作り出す確かな走り。
高速でも安心してトバせる高性能なサスペンション。
これが本当に軽なのか、といぶかしく思えるほど良くできている。
2.広い視界
広いガラスに背高ボディ。パノラマビューである。
後方視界も良好。
メルセデス・ベンツGクラスの後に乗ったから
特によく感じるのかも知れない(笑)
3.異様に広い室内
外から見るよりも明らかに広い。
一体どうなっているのでしょう。
大人4人が十分にくつろいで乗れます。
× N-ONEの“これはちょっとどうもなぁ”
1.意外と伸びない燃費
背高ボディが災いしたか、
高速と一般道の半々で満タン計測リッター13.5キロ。
うーん昨今のリッターカーはもっと伸びるぞ。
2.後輪側から伝わる妙な突き上げ感
ここはちょっと気になる。ただ、後ろに人が乗ると解消される。
今回のバツは2点。一生懸命アラを探したのだが、
あまり弱点が見つけられない。
強いて言えば「スマホ連動型のナビゲーション」か。
私はいまだにガラケーなのですよ(笑)。
<<フェルディナント・ヤマグチ>>
(企画・協力:藤野太一)
nikkeibp.co.jp(2013-02-12)
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