第一章 人と生産システム(大規模な)の関係 |
1.生産システムは無人化の方向か? |
生産システムが、新しい技術によってより高度に自動化され、規模も大きくなっていくことは基本的なトレンドとして否定することは出来ない。 その結果、一人の人間が扱うあるいは管理するシステムは次第に大きくなり、総人数はへるものの扱う人のレベルもシステムの規模に合せてより向上を求められるのであり、無人にはならない。 物を作る責任者は常に人である。ならば人を明確に位置付けて、人の役割とレベル等を充分考えて生産システムを作っていかなければならない。 |
1-1図は、新しい生産システムのあり方は無人化の方向ではなく、人間尊重という社の理念に沿った働く喜びというものを伴う人と生産システムの関係を築き上げれば、企業の生き残り条件である少数精鋭による高生産性がもたらされるであろうという模式図である。 |
2. 人と生産システムの関係はどんな関係が良いのか? 一言で言うならば「誇りと喜びを感じる関係」ということになるだろう。 生産行動(行為)に喜びを感じるということは * 操作する楽しさがなければならない。 * 自分でなければ出来ない、自分だから出来る ……と感じられねばならない。 (よく理解している。意志疎通が出来る。) * 仕事の内容が先進性がある。(誇れる技術内容) * 社会的にみても良い仕事をしている。 といった条件を満たしていなければならないと思う。 この事を考慮に入れて人の仕事と機械の仕事を分類設定すると |
人の仕事(役割) | 機械の仕事(役割) |
* 指示、命令とその為の操作 | * 指示、命令通りに動く力仕事 |
* 異常の察知 | * 異常の発信 |
* 異常時の判断処理 | * 間違った判断をしないための状況提示 |
* 日常メンテナンス | * メンテナンス要点を提示 |
* 改善工夫の提案 |
3.個別生産システムからプロセス生産システムへ P.ドラッガーは、「生産システムは、個別生産システムから大量生産システムを経てプロセス生産システムへ進化する」といっている。 生産性をより高めていく進化の形態としてとらえているものである。 ここで言うプロセス生産とは、"設定されたプロセスに従って機械装置が自動的に製品を作り出し、その間、人はそれの管理運営を行う"という事であり、自動車生産システムについても最終組立を別にすれば正にこのプロセス生産にどんどん近づいていると言って良いだろう。 いや組立すらもこの方向に進化しつづけるのではないかと思われる。 一方ユーザーの志向は、多様化を通りこして、個別の商品を求めていると言われている。 しかしこれは車としての基本部分を変えて欲しいというものではない。素材は同じでも味付けを変えるといったレベルのものであり、現在は組立ラインの中で組合せによって味の違いを出していることになっている。 ユーザーのこの傾向は強まることはあっても昔のようになることはない。 プロセス生産は一見、このユーザーの傾向と逆の方向の少種大量生産のように思える。 が生産システムが進化していく方向は、生産性を上げつつユーザー志向に沿うものでなければならない。 車の生産システムは従来えてしてカーメーカーの工場だけの事を対象にしがちであるが、本来、素材からユーザーの手に渡るまでを対象とすべきで、そのトータルのシステムで生産性と、ユーザー志向の両立を考える必要がある。 *A 生産形態の進化《ここをクリック》 即ち、プロセス生産の中でユーザー志向に応えるべき事、応えられること、その他の流通の過程で対応すべき事、対応できる事、というものがあるはずで、それによって生産性とユーザー志向を両立させるというのがこれからの方向ではないかと思う。 この様にしてみると、P.ドラッガーの予測も正しいと言わざるを得ない。 そこでプロセス生産の他の業界の実態を調べてみることにして代表的なものを三つ選んでみた。 ● 原子力発電所 ● 化学プラント(石油精製) ● 製鉄所 *B 質問事項《ここをクリック》 *C 調査データ《ここをクリック》 4.調査結果から これらのプロセス生産は、共通して次の様に言うことが出来る。 1.巨大な機械システムを非常に少人数で運転しているが、それを 更に少ない人数で出来るようにしようとして来た歴史。 ………フューマンエラーを無くそうとする努力の結果。 しかし、無人化しようとはしていない。少なくとも管理運営するのは 人であり、その人をも無くすることは考えられない。 2.オペレーターについては、知識と高度な技術訓練が必要である。 有資格者、チームプレー、リーダーは機長イメージ、 オペレーターという呼称→エンジニア この様にシステムを扱う人は、多くの知識と高度な訓練を受けた人で あり給料も高い、新しい職業人(プロフェッショナル)である。 3.システム側は、オペレーターの管理スパンの広がりをカバーし、 楽に操作が出来、熟練度も下げられる様な対応をして来ている。 4.訓練の仕方としては、正常な運転より、異常な時どうするかのウエイトが 大であるが、異常を実機で体験出来ない。 従ってシミュレーターが必需品となる。 5.システムの今後の方向としては、より安全性と信頼性向上のために、 人の感覚より優れたセンシングの取入れ。 6.人については、働き甲斐のある職場という観点での施策が必要。 一つだけはっきりした事は、 『新しい職業人(プロ)の姿』である。 我々自動車製造の世界でも、この新しい職業人を認識・認知し、それを育成 することが必要なのではないだろうか。 我社の基本理念を具体化するためにも ここが重要なポイントであろう。 保守する人についても新しい知識・訓練が必要で、これも新しい職業人となり 得る。 5.ホンダの工場は今どうなっているか。 前にも述べたが、今の車作りは完成車組立を除けば、全部門が大きな機械システムによって行われている。 当然の事ながら人が機械システムを道具として使いこなして生産するという構図を描きつつ生産性向上を目指してシステムの大型化・少人化に取組んで来たわけだが(ここで言う大型化は、ラインとして連なる長さ、人の受け持つスパンの大きさという意味)現実はどうなのだろうか。 プレス、溶接、塗装、機械加工について調べてみた。 (1) <プレス部門>では、鈴製のトランスファーラインが最も大型化しているシステムであり、調査対象として適当と判断した。 ● 1ラインに1シフト7名 ・オペレーター:1名● オペレーターには最も優秀なメンバー(班長のすぐ下)を選出した。 理解力、体力、自己啓発で若くなければ出来ない。(今) ● 誰でも使えるシステムにして欲しい。(将来) ● このシステムは職場にとってハッピーか? 検査マンを除けばハッピーである。 * プレス部門は久々の大型投資で気合が入っていた。 そして最初の人選が良かった。 このプレス部門の取組みが今後の人とシステムの有り方に良い 示唆を与えていると思う 《注:塗装・溶接・機械加工領域の調査結果の掲載は省略します。 但し、資料をご希望の方は世話人へ連絡願います。・・・ohsann》 まとめ わがホンダの生産ラインにおいても、大規模システムと人が生産している部門においては、そこに働く人によって、Q.C.D.が左右される。 設備や機械システムが持つポテンシャルを発揮させられるかどうかは、使う人の力量による所が大きい。 「誰でも使えるようにすべきである」という意見もあるが、これは最低限の機能しか期待しない場合で、システムのポテンシャルを引き出せずムダの多い方向という事になる。 例えて言うならば、自動車に乗ってある目的地に行こうとした場合、誰でも運転できる自動車だけれども下手糞の運転では、不完全で気分が悪く、時間がかかって燃費も悪い、というようなものである。 生産システムを考えた時、えてして機械システムのハード面のみをどうするかという捉え方しかしないが、人がシステムの中の重要な位置付けであることを忘れてしまっている。 我社の中でもプレス部門のような良い例や、カナダのTM計画は生産システム検討に人を大きく取り上げているのは、大いに期待が持てる。 しかし、本当の競争力アップのためには、新しい職業人に相当する人にキチッとした教育訓練を行うことこそが最重要だと考える。 このところアメリカが競争力をつけて来たと言われているが、一説では人の教育という所に気がついて徹底して実行しつつあるからだと言われている。 HJCやTQMではない。自分で考え、判断を出来る力をつける教育。 工場で働き、もの作りをしている人はもはや肉体労働ではない、知的労働である。 アメリカでは既にこのコンセプトが一般化しつつある。 (しかし、エコノミスト、政府、一般大衆はまだ理解してない) そして、 レベルの高い新職業人と機械システムの関係で双方がそれぞれを引っ張り上げるという構図になるのが望ましい。 |