燃費向上率、フィット越え リッター21.6キロ実現
ホンダ「フリードHV」開発責任者に聞く

 ホンダは28日、ミニバン「フリード」のハイブリッド車(HV)を発売した。フリードは小型車「フィット」に次いで同社の人気車種でHVの品ぞろえを増やす。ミニバン本来のゆとりある室内空間を確保しながら、燃費をガソリン車より3割向上した。開発責任者の本田技術研究所四輪開発センターの安木茂宏主任研究員に開発のポイントを聞いた。

 ――実際の走行に近いJC08モードで1リットル当たり21.6キロメートルの低燃費を実現した。

 「燃費は従来のガソリン車のフリードより約30%向上した。フィットではHVの燃費はガソリン車より26%優れており、燃費向上率でフィットを上回ることを目指した。ミニバンのため、車重が200キログラム以上重いが、フィットのHVの1年後に出す以上、高い目標を掲げなければと考えた」

 ――従来のHVとの設計や開発の違いは。

 「開発プロジェクトが2年ほど前にスタートした時はミニバンにハイブリッドシステムを搭載するのは難しいと思った。従来のHVの後部は荷室のため、床面を高くして(電池や制御装置を統合した)インテリジェント・パワー・ユニット(IPU)を後部床下に設置できる。だが、フリードは3列目の座席があり、後部の床面をあまり高くするわけにはいかない」

 「そこでIPUの設置の仕方に知恵を絞った。見直したのが車内の空気を吸って電池を冷やすダクトだ。細くしたり、座席の真下を通らないようにしたりして効率よく配置した。後部の床面を65ミリ高くするだけで済み、3列目の座席の脚部を短くしてガソリン車と同じ座面の高さにした」

 ――燃費向上率でフィットHVを上回った。

 「6月に発売したステーションワゴン『フィットシャトル』で燃費を向上する3つの新技術を採用した。そのうちブレーキ回転抵抗とエンジン摩擦を低減する技術をフリードHVでも搭載した。空気抵抗を減らす車体下面のカバーは設置していないが、車体側面などに空気の流れを整えるエアロパーツを付けた。こうした技術の積み重ねで、さらなる燃費向上を実現した」

  ――従来のHVとエンジンの違いは。

 「エンジンはHV専用車『インサイト』の排気量1300ccのエンジンヘッド(バルブ)と、スポーツタイプの『CR―Z』の1500ccのブロック(本体部分)を組み合わせた。インサイトのエンジンヘッドは低燃費に向くが、ブロックはミニバンでは低速時のトルクが不足する。トルクを上げるため、排気量を高める必要があった」

 ――内装でこだわった点は。

 「フリードHVは当社のHVの中で高価格帯になるため、乗り心地がさらに良くなるよう追求した。例えば遮音ガラスを使うことで雨天時の雨音を抑えるなど静粛性を高めた。また、HVシステムを搭載することで車重が80キログラム重くなることを生かして、凹凸のある路面を走行した時にしっとりとした乗り心地を得られるようにした」

 ――ターゲットとする顧客層は。

 「居住性や燃費、価格などを含めた日本一のファミリーカーがフリードのコンセプトだ。家族の絆を深めてもらうことに加え、求めやすい価格でHVを設定することで低燃費ニーズにも応えたい。2列座席で自転車も積める『フリードスパイク』はアクティブな団塊世代などに使ってほしい」

<ミニバン優位、維持狙う>

 小型車、軽自動車と並んで競争が激しいミニバン市場にあって、ホンダの「フリード」は競合車種が比較的少ない。ミニバンの中でも低価格、コンパクトが売り物で、ホンダ車としての販売台数は主力小型車「フィット」に次ぐ。ホンダはニーズが高まるハイブリッド車(HV)を追加し、競争優位の維持を狙う。

 フリードの2010年の販売台数は9万5123台。登録車全体では5位だが、ミニバンでは首位に立った。ミニバンで2位の「ステップワゴン」とともに同市場におけるホンダの強さを支えた看板車種だ。

 フリードが人気を集めるのはミニバン市場の中で独自のポジションを築いたことにある。ガソリン車の従来モデルの価格は169万8000円から。全長が40〜50センチ長いトヨタ自動車の「ヴォクシー」が205万円から、日産自動車の「セレナ」が216万3000円からで、コンパクトさと安さが際立つ。

 ミニバンのHVではさらに競合は少ない。トヨタの「アルファード」のHVは、全長が70センチ弱長く、価格は395万円から。フリードHVは大幅に安く、ターゲットとする顧客層は異なる。東日本大震災後は部品不足による減産で販売台数を減らしたホンダだが、再びミニバン市場での存在感が高まりそうだ。 (遠藤淳)

《追記》
☆本田技研工業情報 「新型フリードシリーズに、ハイブリッドを追加し発売 −5ナンバーサイズのミニバン/ハイトワゴンとして、初めてのハイブリッド車−」ここをクリック

日経産業新聞(2011-10-28)