ホンダ熊本、終回に一矢 1点差、住金鹿島に惜敗

 都市対抗野球第7日の28日、九州第一代表の大津町・ホンダ熊本は、第2試合で鹿嶋市・住友金属鹿島と対戦し、1−2で惜敗した。九回に一打逆転の場面を作ったが、あと一歩及ばなかった。2年前に続く3回戦進出はならなかったが、最後まで諦めないナインのひたむきなプレーに、スタンドからはいつまでも惜しみない拍手が送られた。【西嶋正法、高橋隆輔】

 ホンダ熊本の先発は補強選手の幸松司投手。昨年は自チームの九州三菱自動車の投手として都市対抗に出場し、初戦で住友金属鹿島に敗れただけに「今年こそ」と雪辱を期して上がったマウンドだった。序盤に2点を失ったが、私設応援団長の斉藤洋征さん(68)は「予選でも逆転勝ちが多かったから大丈夫」とスタンドに焦りはない。

 藤野裕次主将の大ファンという多田歩美さん(28)は「さあ勝負はこれから」と白いスティックバルーンをたたいた。西川翔太内野手の長女澄莉(きより)ちゃん(4)、長男輝(2)ちゃんも逆転を信じ、スタンド最前列で声援を送った。

 八回までスコアボードには「0」が刻まれた。ホンダ熊本の一塁側スタンドがこの日一番の盛り上がりを見せたのは、2点を追う九回の攻撃だった。

 畠中伸知左翼手の内野安打を足掛かりに、敵失と四球などで1死満塁の好機をつくる。ここで打順は佐久本匠遊撃手。スタンドで佐久本選手の父勇さん(59)は「しっかりボールを見極めろ」と声を張り上げた。その言葉通り、8球粘って押し出しの四球を選び、1点差に。「さあ次は逆転だ」と拳を握りしめた。

 なお好機は続く。「ホンダパワーで打ちまくれ」。応援団、チアガールが声をからし、「狙い打ち」の応援曲に合わせて声援を送る。相手投手が投げる一球一球に、球場がどよめく。カウント3ボール2ストライク。「必死に食らいついた」という浜岡直人捕手の打球は、力なく相手三塁手の前へ。悲鳴が飛び交う中、併殺が成立して試合が終了すると、それまでの大歓声から一転、スタンドは沈黙に包まれた。

 スタンド前にナインが整列すると、「よく粘った」「ナイスゲームだったぞ」と健闘をたたえる声が送られた。大津町から応援に駆けつけた国岡良一さん(64)は「この熱気と感動は一生忘れません」と、いつまでも拍手を送っていた。

 ◇アシモも応援

 ○…ホンダ熊本のスタンドでは五回、本田技研の人間型ロボット「ASIMO(アシモ)」の着ぐるみが応援した。大分県内の関連会社所有の着ぐるみで、スタンドを盛り上げてチームを後押ししようと駆けつけた。動作がぎこちなく、特設ステージによじ登れなかったのはご愛嬌(あいきょう)。珍しがられ、次々に携帯電話で撮影されていた。ホンダ熊本の応援を統括する中村寛明さん(22)は、「応援に来た人に喜んでもらえた」と満足そう。

 ◇からいも大津PR

 ○…ホンダ熊本の一塁側入場門では、大津町の職員らが黄色の法被姿で町特産のからいも(サツマイモ)を販売した。地元JAブランドの「ほりだし君」計約25キロで、入場者には町の紹介するパンフレットや銘菓「銅銭糖」計50個も配布してPRした。町職員の岩下潤次さんは「大阪開催の機会にたくさんの人に大津町を知ってもらえれば」。試合中は「土の匂いがする泥臭い野球で、02年の準優勝を超えて」と熱い声援を送った。

 ◇「社員みんなの潤滑油」−−ホンダ熊本マネジャー・清水慎吾さん

 ホンダ熊本の清水慎吾さん(27)は今春、内野手からマネジャーに転向した。約4年の選手生活にピリオドを打ったが、「社員みんなの潤滑油でありたい」と意気込む。

 大阪府出身で、PL学園卒業後、明治大に進学。東京六大学野球に出場し、優勝も経験した。07年、ホンダ熊本に入社した。昨年12月、渡辺正健監督(42)に「やってくれるか」と告げられた。「任せてください」と引き受けた。

 中学時代、京セラドームで観戦した社会人野球の試合が忘れられない。声をそろえて応援する社員。安打1本に総立ちとなり拍手の嵐が湧き起こる。温かい独特の一体感に触れた。「それまでの独り善がりな野球観が変わった」。だから、マネジャーへの転向にためらいはなかった。

 消耗品の注文から、練習試合の球場手配まで一手にこなす。時にはユニホーム姿でノックすることもある。「気配りが利く性格で、名マネジャーの素質がある」と、渡辺監督は見守る。

 野球部を全社員のよりどころにしたいという。部員を含む全社員での「和をもって勝つ野球」の実現を夢見ている。【丸山宗一郎】

mainichi.jp(2011-10-29)