ホンダ、止まらぬ2輪の快走

ホンダの収益を支える2輪事業が海外で快走している。新型エンジンを投入し、インドネシアでは新工場を検討する。世界販売台数3000万台計画が現実味を帯びてきた。

 「性能を向上させたのに価格は据え置く。競争力のあるエンジンになる」。9月26日、2輪車用の新型エンジンを発表したホンダの大山龍寛・取締役専務執行役員は、こう強気の見方を示した。

 2種類の新型エンジンの共通点は、海外を主要販売地域とすることだ。排気量125ccの機種はスクーターへ搭載するもので、燃費性能を25%改善した。主に東南アジアなど新興国で生産して現地で販売する。地域ごとに3種類あったエンジンを、2〜3年かけて新型エンジンに統一していく。もう1つは700ccの中型エンジンで、こちらは先進国に照準を絞る。生産するのは熊本製作所だ。

 円高の影響もあって、ホンダは2輪事業の海外シフトをここへきて、さらに加速させている。

 700ccの新型エンジンの生産を熊本に残すのは、国内の開発機能を維持するため「生産現場をある程度は日本に持たなければならない」(大山専務)との判断からだ。生産台数の多い小型エンジンは、海外に順次移管していく。

 国内では低迷している2輪車市場だが、海外では依然として成長産業だ。

 エンジン、フレームなど別々に作られてきた部品が、コンベヤーに乗せられて1カ所に集まる。地元採用の作業員が慣れた手つきで組み上げ、次々に真新しいバイクが生産ラインから走り出していく――。東南アジアで屈指の市場規模があるインドネシアで、ホンダの現地法人、ピー・ティ・アストラ・ホンダ・モーターは7月末、年産50万台の工場を、第3工場の敷地内に稼働させた。「BeAT」という若者に人気が高いAT(自動変速機)タイプのバイクを生産しており、車種を絞り込み高い効率を追求している。

 インドネシアで新工場建設に動く

 競合相手に一時は現地でのシェアトップを奪われたこともあるが、今年に入ってからは首位の座を守っている。既存工場と合わせた生産能力は年間430万台で、この2年で160万台分も増強。残業や休日出勤などで最大500万台までの増産が可能という。それでも2年後には生産能力の不足が懸念されるほど、市場が急伸している。

 2010年のインドネシアの2輪需要は737万台で、ホンダのシェアは警察登録ベースで48%だった。今年以降も年率3〜4%の成長が続く見通しで、2020年頃には1000万台の大台に達すると見られる。「1000万台到達時に、市場シェア60%が目標」とアストラ・ホンダの堀祐輔社長は話す。

 それには年間600万台の生産能力が必要だ。新工場を建設し、稼働させるには2年はかかる。アストラ・ホンダは既に第4工場の建設へと動いており、候補地の選定に入っている模様だ。

 世界で1500万台を販売する2輪事業は、ホンダの収益を支えている。2011年3月期は1385億円の営業利益を稼いだ。売上高営業利益率は11%弱と、自動車事業の3倍近い高さだ。2012年3月期は震災によって自動車事業が苦戦しており、2輪事業の存在感は一段と大きくなる。

 縮小均衡に入りつつある国内事業のてこ入れは課題として残るものの、海外市場を取り込むことで、2輪事業は当面は成長軌道が続きそうだ。

 新型エンジン開発にインドネシアで進む大増産計画…。「10年後に2輪車の世界販売を3000万台に倍増させる」という目標を掲げるホンダだが、それは次第に現実味を帯びつつある。 <<日経ビジネス 2011年10月10日号14ページより >>

nikkeibp.co.jp(2011-10-14)