ホンダ「化合物太陽電池」
 変換効率向上で新興国に対抗


甲子園球場の銀傘上に設置されたホンダの太陽電池パネル。昨年3月から稼働している

 ホンダが太陽電池ビジネスを加速する。来年度初めに化合物系太陽電池で変換効率の高い商品を発売するほか、今後も効率向上と低コスト、環境特性などを武器に事業拡大をもくろむ。世界的に太陽光発電が普及し、中国メーカーなどの参入によって低価格化が進む中で、ホンダはシリコンを使わない商品で差別化し、競争を勝ち抜きたい考えだ。

 太陽電池は現在、原料にシリコンを使ったものが主流だが、ホンダが手がけるのは銅・インジウム・ガリウム・セレンという4種の金属化合物を使った「CIGS薄膜式」と呼ばれるタイプ。光が当たると、電気の元となるプラスの性質を持つ正孔がCIGS化合物に、マイナスの性質を持つ電子がCIGS化合物の上に重ねたバッファ層に集まる。両方の電極を結ぶと電気が流れる仕組みだ。

 光を電気に変換する効率を示す変換効率ではシリコン系が最高レベルで20%を超えているのに対し、ホンダが来年度初めに投入する商品は13%超で、まだ差は大きい。ただ、実用面ではその差は小さくなるという。

 ◆高温、影にも強い

 太陽電池は高温になると発電量が落ちるが、CIGS薄膜式は材料の性質上、高温でもあまり落ちない。実際に屋根に設置した場合、表面温度は約80度に達する。この条件下では「シリコン系と比較し、CIGS薄膜式が2%発電量が高くなる」(ホンダソルテックの船川和彦開発センター長)。

 さらに、CIGS薄膜式は電池セルを並列で接続しているため、パネルの一部に影ができても発電量はあまり落ちない。これに対しシリコン系は、セル1枚の電圧が低く直列接続してパネルを構成しているため、一部に影ができると電気の通り道がふさがれ発電量は低下する。CIGS薄膜式は高温と影に強いという特徴から、変換効率は低くても、「年間発電量ではシリコン系よりも大きい」(同)という実験結果も出ている。

 薄膜式の特徴はそれだけではない。低コストと環境特性が高い点だ。シリコン系に比べセルの厚さが80分の1と薄く、製造工程が半分程度で済むためで、製造時に排出される二酸化炭素(CO2)排出量も半分に抑えられる。製造時に使ったエネルギーを製造後に生み出すエネルギーで取り戻すのにシリコン系だと約1年半かかるのに対し、「CIGS薄膜式は11カ月足らずで取り戻せる」(同)。

 ◆「数年で15%にする」

 自動車メーカーのホンダが太陽電池に取り組んだきっかけは、オーストラリアで開催されるソーラーカーレースに自社製太陽電池パネルを積んだ車で出場するためだった。1996年から本田技術研究所で開発を始め、2007年には子会社「ホンダソルテック」を熊本県大津町に設立した。当時から主流はシリコン系だったが、後発だったことや変換効率の伸びなどを勘案しCIGS薄膜式を採用した。現在では特約店契約を結んだ住宅メーカーやホンダの販売店などで一般販売も行っている。太陽光発電市場は現在、主流のシリコン系は世界的に中国製品などが多く流通し、供給過剰気味。これに伴い、「この四半期で価格も2割落ちた」(同)。ただ、金属化合物系の技術は日本勢が新興国を大きく上回っているとされ、昭和シェル石油も今年7月、化合物系電池の大規模工場をフル稼働させた。

 ホンダは今後も化合物配分の調整や高純度化によって、変換効率を「数年で15%にし、20%も狙える」(ホンダソルテックの数佐明男社長)と意欲をみせる。(大坪玲央)

sankeibiz.jp(2011-09-19)