中国はいかに沈むか

 中国共産党の幹部たちはいま、チェスプレーヤーが最も恐れる「ツークツワンク」に陥っている。どのように動いても、自分に不利になる状態のことだ。中国は、能動的に対策を打っても打たなくても、いずれもその報いが経済の破綻を招く状況に陥っている。

 中国は少しずつ、これまでの政策の招いた結果に直面し始めている。貸し出しはここ数年、年30%以上も増加し、インフレ率は急速に上昇している。先進国でもインフレはうれしくはないが、まだ耐えられる。中国は巨大だが発展途上国であり、発展途上国でのインフレは大災難だ。先進国で食料品支出が収入に占める割合は、発展途上国の2倍から3倍も少ないのだ。

 つまり、たとえインフレは嫌でも、先進国の人々には耐える余地がある。米国でインフレがおきたら、人々は外食を減らし夏休みの旅行をなくせばすむが、中国でのインフレは飢えにつながる。

 中国政府は必死で経済成長にブレーキをかけようとしている。土地の開発業者への銀行融資を止めているほか、銀行に義務付ける預金準備率を今年に入って5回も引き上げた。しかし、こうやってインフレを抑え込むことに成功すれば、今度は経済成長の鈍化と失業率の上昇を招く。皮肉にも、この2点は、党幹部たちがここ数年、中国経済をどん底から立ち上がらせるために必死で取り組んできた課題だ。

 中国経済に強気な見方をする人たちは、全能の中国政府は経済を軟着陸させることも可能だとみる。しかしそうだろうか。中国の経済成長の核にあるのは、強制的な銀行融資だった。単純にいえば、不良化しそうな債権が多すぎる。米会計事務所のアーンスト・アンド・ヤングによると、地方政府の700億ドルの借り入れの3分の1が返済に問題が起きる可能性があるという。6月17日付のサウスチャイナ・モーニング・ポスト紙によると、中国人民銀行は中国の銀行が地方政府に対して抱えるリスク債権は14兆元(2兆2千億ドル)にのぼると推計している。

 融資がストップすれば資産価値の上昇は止まり、おそらく下落するだろう。ネズミ講の常である。同時に製造業部門と商業用不動産の過剰供給力が表面化するだろう。そしてだれもが、王様は裸だったことに突然気づくのだ。

 私はよく、中国では米国のような不動産危機はおきないという意見をきく。一戸建てやアパートを所有者は購入時に30‐40%を頭金として払うからだ、というのが、こうした意見の根拠だ。では、人々は、平均で年収の8倍(米国の数倍高い)もする家の購入資金をどうやって用意するのか。貯金から出すほか、親戚から借金して賄っているのだ。

 少し考えてみよう。1990年代、中国の銀行制度は基本的に破綻していた。再生策として、中国政府は銀行のバランスシートから不良債権を取り出し、バランスシート外で処理できるようにした。エンロンもびっくりの巧妙さだ。銀行は、何事もなかったかのように機能し始めた。バランスシート外の債権に資金を融通するため、政府は預金金利を1%程度の低レベルに引き下げた。同国では貯蓄率が高くインフレ率が5%にのぼるため、結果として年4%分もの購買力をフイにしたことになる。

 中国の消費者はこの10年間、90年代の終わり頃の銀行危機の影響を受けてきた。この先、状況はひどくなるだろう。お金を銀行に預けても何の意味も無いが、他に投資の選択肢はない。しかし、価値が下がらないはずの資産、つまり家やアパートなら投資ができる。だから、中国の消費者は家やアパートを購入してきた。

 中国が経済に急ブレーキをかけ、家の資産価値が下がると、銀行は多額の資産を失う。しかし、もっと重要なのは、異常な高値で家を買ってきた中国の国民、お金を貸した親戚たちが資産を失うことになることだ。一世代以上にわたる富と勤労は失われる。こうした痛みは政治的な不安定さを引き起こす。これが中国のブラックスワンだ。(2011年7月6日 Forbes.com)

【by Vitaliy Katsenelson(ヴィタリー・カットセネルソン氏は米コロラド州に本拠を置くインベストメント・マネジメント・アソシエーツ社の最高投資責任者。近著に“The Little Book of Sideways Market”)】

nikkei.com(2011-07-14)