徹底討論、考え深める「本田哲学」 ホンダ
〜いまどき若手教育

 ホンダが若手教育の見直しを進めている。知識などを一方的に教える教育ではなく、少人数による討論などを通じて本人に考えさせる教育を実践。「主体性」「夢」「チャレンジ」など、本田宗一郎氏による創業以来大切にしてきた「ホンダフィロソフィー」を改めて浸透させ、若手の成長を促す。

 ホンダが社員教育の見直しに乗り出し始めたのは2008年。本田宗一郎氏が亡くなった1991年から数えると、宗一郎氏のことを知らない世代が次々と入社。ある種の危機感が募っていた。

 最近の若手社員の傾向も不安材料だった。「教えられるのを待っていて、主体性に欠ける」。ホンダで人事関連を担当する広瀬文郎人事部人材開発センター所長はこう指摘する。

 このままでは本田宗一郎氏が大事にしてきたことなどが若手社員に理解できるはずはない。理解できなければ他社とは何か違うことをやるといったホンダらしさは自然と失われる――。そこで導き出した答えが、従来に増して考えさせることに主眼を置いた教育だった。

 「ホンダフィロソフィー」というタイトルの小冊子がある。ホンダの社員なら誰もが入社時に手にするものだ。ホンダが会社として大事にしたいことを記してある。同社を一代で世界企業に育てた本田宗一郎氏、そのパートナーの藤沢武夫氏が仕事をするうえで大切にした考え方などを全て凝縮したものと言い換えてもいい。

 縦16.5センチメートル×横8センチメートル。分量的にもかなり薄めの小冊子だが、わずかこの1冊だけを教材とした教育が「ホンダファンダメンタルコース(HFC)」だ。

 20歳代の若手社員を対象に「ベーシック」と「アドバンス」の2コースを設定している。08年に従来の研修内容を改定。ホンダフィロソフィーを従来に増して重きを置くようにし、丸3日間を若手同士が議論に時間を費やすようにした。

 若手社員のグループに1人の先輩社員がアドバイザーとして付き、例えばこんな具合で進行していく。ホンダフィロソフィーの冊子の中に「常に夢と若さを保つこと」とある。普通、若手社員がこのくだりを読んでも、「常に夢を持つのは分かるけど、常に若さを保つこと」と言われても、ピンとはこない。

 どういう意味なんだろうかと、そこから若手社員の「考え」が始まる。「ホンダが考える若さとは年齢の事ではなく、感受性の事ではないか」。自分の考えを深めたうえで、それを同僚の若手にぶつけ合い議論する。

 広瀬所長は「考えることを習慣づけることで、主体性が身につく」と説明する。問題意識を持って考えさせることで「当社が会社として大事にしたいことも浸透できる」とし、今後も考えさせる教育内容を充実していく方針だ。(中村裕)
{日経産業新聞2011年1月28日付の記事を再構成しました}

nikkei.com(2011-06-22)