「突撃始めます」見つめる大統領 司令室 緊迫40分


 「突撃始めます」見つめる大統領 ビンラディン容疑者殺害  司令室緊迫40分

 五月一日、日曜日の午後。ワシントンのホワイトハウス作戦司令室にはオバマ米大統領、バイデン副大統領、ゲーツ国防長官、クリントン国務長官らが、緊張した面持ちで大型スクリーンの生中継映像を食い入るように見つめていた。

 スクリーンに映るパキスタン北部のアボタバードは二日未明。ほぼ新月に近い暗闇だった。ヘリコプター四機に搭乗した米海軍特殊部隊(SEALS)と中央情報局(CIA)の部隊が大きな邸宅の上空に到着。「大統領、突撃を始めます」。国際テロ組織アルカイダ指導者ウサマ・ビンラディン容疑者(54)の拘束・殺害作戦の幕が開けた−。

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 ブレナン大統領補佐官(テロ対策担当)の二日の記者会見によると、オバマ大統領らは約四十分間の作戦の一部始終を目の当たりにしていた。

 ビンラディン容疑者拘束・殺害という「悲願達成」を目前に、作戦司令室はオバマ政権発足以来、最も張り詰めた雰囲気で、「数分間が数日間に感じた。みんな息をのんでいた」(ブレナン氏)。

◆3つの選択肢

 作戦には政権内にも意見の相違があった。米紙ニューヨーク・タイムズによると、CIAは暗号名ジェロニモの隠れ家をめぐって、B2ステルス爆撃機により跡形もなく破壊する攻撃や、パキスタン情報機関との共同作戦を含め三つの選択肢をまとめ、三月十四日にホワイトハウスへ持ち込んだとされる。

 二日の会見で、ブレナン氏は「大統領が決断した」と強調した。

 SEALSとCIAの特殊部隊はこの日に備え、実際の邸宅(隠れ家)に似せた家を建設し、何度も突撃訓練を繰り返してきた。国防総省高官によると、ビンラディン容疑者は三階建て本館の二階と三階部分で、最も若い妻ら家族と生活しているとの情報もつかんでいた。

 万全の態勢で臨んだはずの作戦だったが、実際には予期せぬ展開もあった。

◆パキスタン軍緊急発進

 ヘリ一機が「故障のため」(米政府高官)邸宅内に不時着を余儀なくされた。米高官によると、離陸するのは困難で、特殊部隊員らはヘリが容疑者側の手に渡るのを防ぐために破壊した。

 情報漏えいを恐れ、パキスタン政府に作戦について事前通告しなかったとされ、作戦終了間際にヘリの動きに気づいたパキスタン空軍機が緊急発進(スクランブル)した。

 ヘリはパキスタン領空から脱出したが、一触即発の危機に、作戦司令室には緊張が走ったという。

 ビンラディン容疑者らは邸宅内で特殊部隊と遭遇した際、拘束を拒否し、女性を盾にして応戦。米メディアによると、同容疑者は頭と胸に二発の弾丸を受けて殺害された。「われわれは、ついにやり遂げた」。大統領は同容疑者の死亡を確認すると短く語った。(ワシントン・岩田仲弘)(東京新聞)  

東京新聞(2011-05-04)