「唱歌集最大の謎」解明 あおげば尊し、元は米国の曲


 かつては卒業式でよく歌われ、アイドルグループ「AKB48」のヒット曲「10年桜」でもメロディーの一部が使われた唱歌「あおげば尊し」の原曲とみられる歌が見つかった。作者不詳で研究者の間では「小学唱歌集の最大の謎」とされてきたが、米国で19世紀後半に初めて世に出た「卒業の歌」の旋律が同じであることを、一橋大名誉教授(英語学・英米民謡)の桜井雅人さん(67)が突き止めた。

 桜井さんは10年ほど前から小学唱歌集の原曲を独自に研究。インターネットなどを活用し、欧米の古い音楽教科書や賛美歌を集め、照合する調査を続けている。

 「あおげば尊し」の原曲とみられる歌は「SONG FOR THE CLOSE OF SCHOOL」(卒業の歌)。4部合唱で、メロディーはまったく同じ。歌詞は卒業で友と別れるのを惜しむ内容だった。1871年に米国で出版された本「THE SONG ECHO」に収録されているのを、ネット上で見つけた。同書が基本的に初出の曲を載せていることから、桜井さんは「原曲に間違いない」とみている。

 作詞はT・H・ブロスナン、作曲者はH・N・Dとあったが、どのような人物かはっきりしないという。

 唱歌は明治時代、西洋文化を学ぶ国策の一環で作られた。文部省が明治15(1882)年から発行した「小学唱歌集」には「蛍の光」「蝶々(ちょうちょう)」など欧米の曲に日本語詞をつけた唱歌を掲載。「あおげば尊し」は明治17年発行の「第3編」に載っている。

 音楽教育史の研究者らが唱歌の原曲を解明してきたが、「あおげば尊し」は見つかっていなかった。日本語詞は文部省の「音楽取調掛(とりしらべがかり)」の担当者3人が合議で練り上げたとされる。「師の恩」「身を立て、名をあげ」などの歌詞は原曲にはなく、時代の影響を受けたとみられる。

 今回の発見について奈良教育大の安田寛教授(音楽教育史)は「唱歌集の中で、最も長く広く日本人に親しまれてきた歌。原曲の発見が最も望まれていた」と話している。

 桜井さんは「改めて、口伝えしたくなる生命力の強い歌だと感じます。諦めずに探索を続けてよかった」と話している。(春山陽一)  

asahi.com(2011-01-24)