現代自、日本の“お株”奪い躍進


韓国の現代自動車が米国、中国、インドなどで攻勢を強めている。デザイン、品質、ブランド力などを高め、世界一のトヨタ自動車を追撃。関税で守られた韓国内への収益の極端な依存など、課題もある。

 韓国の現代自動車の躍進ぶりが、日本メーカーに衝撃を与えている。

 「(現代自は)脅威どころか、(日本メーカーは)様々な部分でもう負けている。欧州でもアジアでも既に日本車のシェアを凌駕した。品質も遜色ない。存在感がないのは日本くらいで、世界では実に強い」。ホンダのある役員は、こう本音を吐露する。

 それほど現代自の世界的なシェア拡大は著しい。

 例えば、日本メーカーの収益の大黒柱である米国。2010年1〜7月の現代自のシェアは、傘下の起亜自動車と合わせて7.8%に達した。2007年は4.8%で、わずか2年でシェアを1.6倍に高めたことになる。

 一方の日本勢は、リコール(回収・無償修理)問題でトヨタ自動車がシェアを落とし、ホンダはほぼ横ばい。日産自動車は好調なものの、現代自にシェアでほぼ追いつかれた。


 「世界で年間600万台販売したい」。7月末に米アラバマ州の工場を訪問した現代自のチョン・モング会長は野心的な目標を口にした。世界一のトヨタ、2 位の独フォルクスワーゲングループに迫る地位を狙う。現代自は2011年にも、昨年の3割増しに当たる年間600万台達成を目指す。

トヨタより少ない販売奨励金

 シェアだけでない。注目すべきは現代自の地力が増していることだ。かつて現代自は、日本勢を真似たデザインと仕様のクルマを低価格で売るイメージが強かった。中古車の価値も低かったが、今や様変わりしている。

 まず新車の販売価格。2002年時点で、現代自の主力セダン「ソナタ」は、競合するトヨタ「カムリ」、ホンダ「アコード」よりも21〜22%も安かった。しかしじわじわと差を縮め、2010年では4〜5%の差しかなくなっている。

 現代自は販売奨励金も減らしている。米国での今年3月以降の1台当たり平均は約1600ドル。トヨタやホンダの2000ドル前後を下回る。日本車より少ない値引きで売る力をつけた。

 「ヒュンダイ」ブランドに対する消費者意識も変化した。中古車の価格情報を提供する米「ケリー・ブルー・ブック」によると、ブランドロイヤルティー(忠誠心)が上昇。今年3月の調査でトヨタ、ホンダを追い抜いた。

 「日本車が韓国車に大きな差をつけているというのはまやかしだった。(現代自の)品質、商品力、ブランド力の地道な改善が認知されてきた」。アライアンス・バーンスタインの中西孝樹・株式調査部長はこう指摘する。

 日本勢の“お株”だった品質、高い中古車価値などを実現しつつある。

新興国でも現代自の台頭が目立つ。

 世界一の自動車市場になった中国では、わずか2年でトヨタ系、ホンダ系をシェアでごぼう抜きにした。インドでは、5割のシェアを握るスズキ系のマルチ・スズキ・インディアを相手に、後発で2割のシェアを獲得した。

 「(現代自は)現地の消費者の好みを反映させた自動車開発がうまい。農村部を含めて、販売網も地道に整備している」。マルチ・スズキのR.C.バルガバ会長もその競争力を認める。

 現代自の躍進は格付け会社も動かした。8月3日、米ムーディーズ・インベスターズ・サービスは、現代自と起亜自を格上げ方向へ見直すと発表。世界販売、シェア、財務の改善を評価した。

 ムーディーズは現代自の経営効率にも注目する。

 韓国内の工場稼働率は90%以上。2010年通年では93.4%を見込む。韓国の通貨ウォンは円と比べて相対的に安く、コスト競争力が高い。これに対し、日本勢は国内工場の稼働率が7〜8割程度。現代自は海外でもフル生産する工場が多く、経営効率は高い。

 さらに現代自はプラットフォーム(車台)の統合を加速する。2009年で18あるプラットフォームを、2013年に6つに統合。一方、車種は32から40に増やす。同じ車台を使って、車種を増やす戦略で収益力を高める狙いだ。

 強さばかりがクローズアップされる現代自だが、死角もある。

 利益の韓国内への過度な依存だ。現代自は、起亜自と合わせてシェアが7〜8割の韓国で利益の大半を稼ぐ。同じ自動車でも、海外向けより韓国向けの価格は高く、儲かる。一方、韓国への自動車輸出には関税が8%かかり、外国車のシェアは極めて低い。

利益の過度な韓国依存に批判

 「韓国の国民を犠牲にして過大な利益を得ているという批判がある」(韓国の証券アナリスト)。現代自のグローバル競争力が高まった今では、こうした保護が必要なのかは疑問もある。

 課題はあるものの、現代自の強さは着実に増している。デザイン、品質などで本質的な競争力を磨いてきた。かつて三菱自動車の技術を導入した現代自だが、気がつけば日本勢の最大のライバルに浮上している。<<日経ビジネス 2010年8月30日号126ページより>>

business.nikkeibp.co.jp(2010-08-26)