電動バイク、国内市場救うか


ホンダやヤマハ発動機が「電動バイク」を発売する。国内需要の起爆剤とも期待されるが、大手の視線は海外に。低迷する国内2輪車市場は、このまま沈み行くのか。

 電動バイク元年ーー。4輪業界に触発されるかのように、国内2輪車業界にも電動ブームが押し寄せている。

 ヤマハ発動機が9月1日に首都圏で先行発売した電動バイク「EC-03」は騒音・排ガスを一切出さず、小さな車体ながらスムーズな加速を特徴とする。6時間の充電で43kmの走行が可能。価格は同クラスのガソリン2輪車との差が5万〜10万円ほどの25万2000円と、割安感を打ち出した。

 経営不振のさなか、大規模なリストラを進める一方で、ヤマハ発は電動関連の技術には2012年末までに80億円を投じ、新モデルも順次投入する計画だ。「世界でトップシェアを目指す」(柳弘之社長)と、鼻息は荒い。

 対する2輪車世界最大手のホンダも電動スクーター「EV-neo」のリース販売を12月から国内で始める。個人向けを想定しているヤマハ発の製品に比べ、大きな荷物を積載できるなど頑丈な設計を施し、業務用も狙う。

 2輪車の国内出荷台数は2009年、ピークだった1982年のおよそ9分の1の38万台まで減少した。世界トップ2社の相次ぐ電動車の製品投入は、長期低迷する国内の2輪車市場で久しぶりの明るい話題として期待感が高まる。

イメージ刷新で国内市場活性化

 ヤマハ発で電動関連事業を統括する小林正典・執行役員は「今までの延長線上ではない、新たな顧客の開拓につなげたい」と意気込む。都市交通のあり方が見直されれば、低い環境負荷で気軽に短距離移動できる電動バイクの需要が高まると見ているためだ。

 もっとも、大手メーカーにとって国内市場の活性化は、電動バイクを投入する狙いの1つにすぎない。むしろ、その視線は巨大な海外市場に向いているようにも見える。

 ヤマハ発はEC-03を来年には台湾と欧州でも販売する。向こう数年の間に日本を含めた3地域の電動バイクの市場規模は30万〜50万台と予想するが、このうち日本は2割程度にすぎないという。海外で一定の販売量を稼ぎ、いずれは製造コストの安い台湾などに生産移管することも検討している。

 ホンダにしても、関係者からは「物価水準から考えると、新興国の方がガソリンのコスト負担が重く、電動車を購入する動機が強い」との声が漏れる。電力インフラの整備や車両コスト次第では、2輪車需要が旺盛な新興国では電動車の人気も高まるとの見立てだ。

 主戦場のアジアの2輪車市場の規模は3000万台以上あり、日本とはケタが違う。収益の軸足が新興国にシフトしている以上、国内よりも世界展開を主眼に置く戦略が欠かせない。

 それでは国内市場はこのまま置き去りにされるのか。そもそも、国内2輪車の復権のための課題は山積みだ。若者の関心低下や複雑な免許制度、駐車場不足など要因は数あるが、中でも「危険で騒々しい乗り物」という社会全体が持つ負のイメージは、長く市場を低迷させる最大の原因となってきた。

 そうした中で電動バイクは、環境や利便性の点で社会に貢献できる乗り物としてイメージ刷新の切り札になる可能性がある。本気で国内市場をてこ入れするのであれば、電動バイクの存在価値も単なる「新しい乗り物」では終わらないはずだ。<<日経ビジネス 2010年9月6日号18ページより>>

business.nikkeibp.co.jp(2010-09-03)