記録破り猛暑、犯人は「2段重ね」高気圧


 今夏(6〜8月)の平均気温は統計のある1898年以降、113年間で最高を記録した。9月に入っても、4日に岐阜県内で39.1度を記録。東京でも、最低気温が25度以上の熱帯夜が連続記録を更新中だ。猛暑の犯人は大気の下層から上層まで続く「背の高い」高気圧。日本付近を覆い続けており、暑さは今月半ばまで続きそうだ。

 テレビや新聞の地上天気図には、連日のように夏の「太平洋高気圧」が描かれている。実はその上層では「チベット高気圧」にも覆われており、日本付近は両方の高気圧の勢力圏内にある。猛暑にはフィリピン海付近の高水温や偏西風の蛇行など、他にも複数の要因が絡むと専門家はみる。

 今夏は梅雨明けと同時に南からの太平洋高気圧が西や北に延び、日本列島をすっぽり覆った。その上空1万5000メートル付近には、アジア大陸からチベット高気圧が張り出した。この結果、勢力範囲が2万メートル近くにも及ぶ巨大な高気圧ができた。

 高気圧内にはゆっくりとした下降気流があり、上空の乾いた空気が降下しながら温度が上がる。フェーン現象と同じ仕組みで、高気圧の背が高くなるほど猛暑になりやすい。雲が出にくいため地上に届く日射量も増加。「日本近海の海水温が高くなって熱が蓄積され、気温が上昇しやすくなった」と、海洋研究開発機構の榎本剛チームリーダーは指摘する。

 富山大学の川村隆一教授によると、梅雨明け以降に太平洋高気圧とチベット高気圧が勢力を強めるパターンが3つ連続して発生したため猛暑が収まらなかったという。

 まず最初が7月後半。赤道付近の太平洋東部の海面水温が例年よりも低く、西部で高くなる「ラニーニャ現象」の影響でフィリピン沖の水温が上がり、強い上昇気流が発生。それが小笠原諸島付近で降下し、太平洋高気圧を強めた。さらに偏西風の蛇行で日本付近が「気圧の尾根」になり、高気圧の発達を促した。

 次が8月上旬。偏西風の蛇行の影響で、上層のチベット高気圧が日本付近の上空に大きく張り出した。インド洋のモンスーン(季節風)活動が活発化し、チベット高気圧の勢力を強めていた。モンスーンはパキスタンの洪水の原因にもなった。「チベット高原の北側を流れる偏西風の蛇行も高気圧を強めやすいパターンだった」(海洋機構の榎本チームリーダー)。

 お盆以降は赤道付近のインド洋東部の水温が上昇し、強い上昇気流が発生。台湾付近で下降気流になり、チベット高気圧の勢力が広がりやすい状態が続くとともに、太平洋高気圧を強めた。また台風が発生しフィリピン付近の上昇気流が強まったことも太平洋高気圧の勢力維持に働いた。

 川村教授によると「ひとつのパターンでは猛暑になりやすい気象状況は持続しない」という。「猛暑が猛暑を招く気象状況は地球温暖化が影響しているのかもしれない」と指摘する。

 猛暑の今後の見通しについて、日本大学の山川修治教授は「9月半ばまで続くが、秋の気配も見えてきた」と話す。太平洋高気圧の南側で東向きの風が強まっており、それに押されるように台風が発生する海域が少しずつ東に移動している。

 一般に台風が頻発すると、その海域では熱が奪われて海水温が下がっていく。山川教授は「フィリピンの東方1000キロ付近で台風が発生するようなれば太平洋高気圧が東に移り(日本から見れば後退して)、北から涼しい空気が日本に入ってくる」とみている。(編集委員 青木慎一)

nikkei.com(2010-09-05)