トヨタ、日産、ホンダの開発トップがエコカーの展望を語る

 5月20日に「人とくるまのテクノロジー展2010」の特別フォーラム「低炭素社会への各社展望〜街に走り出すエコカー」が開催された。トヨタ、日産、ホンダの技術開発の責任者が、各社のビジョンや技術開発の方向性について講演を行った。
 トヨタ副社長の内山田氏は、次世代環境車には棲み分けが起きるが、そのなかでもトヨタは積極的にプラグインハイブリッドを推進していくと述べた。今年度にEV「リーフ」の量産を開始する日産の常務執行役員の篠原氏は、EVは環境性能に加え、軽快な走りや情報サービス、スマートハウスのエネルギーマネジメントとの連係などユーザーに新しい体験をもたらすと語った。本田技術研究所の取締役社長の川鍋氏は、ホンダはエコカーにクルマの楽しさを提供していくと述べるとともに、同社の再生可能エネルギー創出への取り組みを紹介した。 (白石泰基=テクノアソシエーツ)

PHEVを推すトヨタ

図1:トヨタの考える次世代環境車の棲み分け

 トヨタからは副社長の内山田竹志氏が、「プリウス・プラグインハイブリッドの開発」と題した講演を行った。

 石油に代わる燃料として電気や水素は有望な自動車燃料であるが、エネルギー密度についてはガソリン・軽油など液体燃料に遠く及ばない。リチウムイオン電池のエネルギー密度はガソリンの約50分の1である。さらに水素や電気のエネルギー効率は、燃料を取り出すためのコストを含めて評価する必要がある。石油に代わる燃料にはそれぞれ特徴があり、使用する燃料によって次世代環境車には棲み分けが起きる(図1)。

 これまでトヨタはハイブリッド車を積極的に推進してきた。ハイブリッド車は現在普及期にあり、今後のメインストリームになる。EVについても、トヨタは1996年に「RAV4L V EV」を発売するなど従来から取り組んできた。電池技術の進歩により、EVの性能は大きく向上しているが、航続距離、充電時間、コストなどにおいて抜本的解決には至っていない。トヨタは2012年にEVを発売することを発表しているが、EVには航続距離に関する割り切りが必要である。2007年に日米欧で行われた実証実験では、ユーザーの半数は1日の走行距離が25km未満であった。EVに200km走行分のバッテリーを搭載しても容量の多くは使われず、車両のコストを押し上げる要素となる。一方、ハイブリッド・システムを持つことでEVの走行距離に関する不安を解消することができるプラグインハイブリッドは、走行距離やコストなどの点で現実的な提案となる(図2)。

2012年初めまでに、プリウス・プラグインハイブリッドを量産

 プリウス・プラグインハイブリッドは、第3世代のプリウスをベースにしたプラグインハイブリッド車である。プリウス・プラグインハイブリッドは、プリウスで使用していたニッケル水素電池をリチウムイオン電池に変更し、高効率充電器を搭載している。モータはプリウスと同じものを使用するが、インバーターに変更を加えることにより、高電圧化に対応した。プリウス・プラグインハイブリッドの主要諸元は、プラグインハイブリッド燃費が57.0km/L、ハイブリッド燃費が30.6km/Lで、EV走行は23.4km可能である。充電時間は、200Vで約100分、100Vで約180分である(図3)。
図3:プリウス・プラグインハイブリッドの主要諸元

 トヨタはフランスのストラスブールで、プリウス・プラグインハイブリッド100台を使用した実証実験を開始した。2012年初めまでに、数万台規模のプリウス・プラグインハイブリッドを一般に手の届く価格で発売する。また、FCVについても2015年頃をめどに市場導入を目指す。水素供給インフラの整備を政府・自治体・関連企業と連携して取り組んでいく。

日産、EVで新しいユーザー体験を

 日産からは、常務執行役員の篠原稔氏が「電気自動車の取り組みと将来社会への展望」というタイトルで講演を行った。

 日産が電気自動車に取り組む背景には、CO2排出量の削減とエネルギー問題がある。CO2排出量の削減については、ICPPの報告によると、今後気温上昇を抑えるためには2050年までに2000年比でCO2排出量を90%削減しなければならない。エネルギーの問題については、電気は動力への変換効率が高いことに加え、さまざまなエネルギーソースから調達可能である。日産は、EV「リーフ」の販売を日米欧で今年度に開始、2012年までにはグローバル規模での量販を開始する(図4)。

 ここ15年の電池技術を始めとする技術革新により、EVの性能は大幅に向上した。EVは、ゼロ・エミッションという特長に加え、(1)静粛性、(2)軽快な走り、(3)家庭で充電できる、(4)24時間サービスといった新しい体験をもたらす。エンジンに代わりモータを使用するEVはエンジン音がしない。ガソリンエンジンは、ある程度まで回転数が上がらないとパワーが出ないが、モータは最初から最大トルクが発生するため、EVはレスポンスのよい加速を行う。さらにEVはハンドリング性能にも優れる。車両の前方にエンジンやトランスミッションなど重量物が搭載されるガソリン車に比べ、床下全面に重いバッテリーを積み込むEVは車両前後の重量バランスがよく、ヨー慣性モーメントが小さい。

シーンで使い分ける充電方法

 EVの充電には普通充電と急速充電がある。この2つの充電方法を、家庭、行き先、道程で使いわける。例えば家庭では普通充電を行う。充電時間は200V電源で約8時間である。道程では急速充電を使用する。急速充電の所用時間は、DC400Vで約30分である(図5)。EVはセンターと常時接続されるため、乗車中、乗車前後を通じて様々なサービスの提供が可能である。乗車中にドライバーに最寄りの充電ステーションの情報が提供され、乗車後には充電予約のセットなどが可能である。

 EVのもう1つの価値に、バッテリーへのエネルギーの貯蔵がある。太陽光発電とEVを組み合わせたスマートハウスでは、EVのバッテリーの劣化を制御しながら充放電を行うことにより、太陽光発電による電力を貯蔵できる。EVのエネルギー貯蔵は、コミュニティ・レベルでの展開も可能である。停車中のEVをグループとして利用することにより、停車中のEVがエネルギー貯蔵庫になる。日産は、2,000台のEVを使用した実証実験を計画中でさる。ITシステムと常時接続されたEVは、カーシェアリングやパーク&ライドに使用することにより、交通システムの最適化につながる。日産は世界の政府・自治体・企業などと約50のパートナーシップを締結しており、EVの普及推進に取り組んでいる。

ホンダ、エコカーにも「移動する喜び」を

 ホンダからは、本田技術研究所の取締役社長の川鍋智彦氏が「Hondaの次世代自動車への展望と取り組み」とした講演を行った。

 ホンダは、次世代自動車に求められることは「移動する喜び」と「持続可能な交通社会」の両立であると考える。自動車が製造から使用、廃棄までののライフサイクルを通じて排出するCO2は、走行時が60%、燃料精製時が18%であり、この2分野で全体の80%近くを占める。自動車のCO2排出量の削減には、内燃機関の性能向上、ハイブリッド車の拡大、EV、FCVの技術向上に加え、再生可能エネルギー創出に向けた取り組みが必要である。

 ホンダは、環境対応車を「Honda Green Machine」と名付け、普及促進を進めている。その1つが「インサイト」 である。初代インサイトは1999年に発売された。そのハイブリッド・システムを進化させ、普及コストを達成したのが現在の2代目となるインサイトである。新型インサイトには、さらにエコアシストというシステムを搭載した。エコアシストは、スイッチを押すと燃費優先の制御を行う「ECONモード」、アンビエントメーターにより走行中のエコ運転状況を伝える「コーチング機能」、運転後にエコ運転の度合を採点しアドバイスを行う「ティーチング機能」の提供を通じて、ドライバーのエコ運転をサポートする。ドライバーにもよるが、エコアシストを使用することにより、約10%燃費が向上したケースもある。エコカーでは、燃費やエコ運転を競うことも新しいクルマの楽しみ方になる。

マニュアル・トランスミッションが支持されるハイブリッド

 ハイブリッド車「CR-Z」は、「3モードドライブシステム」を搭載している(図6)。シチュエーションに合わせ、SPORTモード、NORMALモード、ECONモードの3つのモードを選択することができる(図7)。CR-Zには、さらにマニュアル車を用意した。マニュアル車とオートマチック車の比率は、約60%のユーザーがマニュアル車を選択している。さらに、ホンダはFCVへの取り組みも進めている。「FCX クラリティ」は、航続距離620km、燃料となる水素のチャージ時間は満タンまで3〜4分と、ガソリン車と同等の性能に達している。
図7:CR-Zの3モードドライブシステム

 ホンダの再生可能エネルギー創出への取り組みは、バイオ燃料、太陽光発電、水素製造がある。バイオ燃料は、地球環境産業技術研究機構(RITE)と共同でバイオエタノール製造の実用検証を行っている。将来的には、バイオ燃料で自動車燃料の約20%を置き換えたい。太陽光発電については、子会社のホンダソルテックで薄膜太陽光発電の製造を行っている。同社の薄膜太陽光発電は阪神甲子園球場に設置され、今年春より稼動開始している。水素製造については、太陽光発電を利用し水から水素を分離する研究開発を進めている。

 自動車からのCO2排出量の削減には、ITSや交通システムとの連動した取り組みも必要である。自動車に最適なルート案内を提供することにより、CO2排出量の削減につながる。ホンダはつながるエコカーとして、ホンダのナビゲーション・サービス「インターナビ プレミアクラブ」の普及促進を行っている。メーカー・オプション装着車に対して、通信費を無料にすることを始めた。交通システムとの関係については、将来のパーソナル・モビリティを検討することが重要である。ホンダは、業務用電動2輪車「EV-neo」を開発、今後発売する。

nikkeibp.co.jp(2010-06-04)