80年代風で大型2輪復権

 爽やかな空気を肌で感じたい季節が到来した。いざ車で出かけるにも、ガソリン価格はじわじわと上昇、ゴールデンウイーク中の交通渋滞にうんざりしたことも記憶に新しい。燃費性能も良く、取り回しも便利なバイクへの人気が一部で高まりつつある。

過度な性能追わず

 低迷する国内の2輪車市場でこの5・6年間、ホットテーマになっているのが「リターンライダー」と呼ばれる層だ。国内市場が全盛期だった1970年から80年代に青春を謳歌した中高年層は子育ても一段落し、経済的にも余裕が出てきた。そこで「もう一度バイクに乗りたい」と考える人が増え、メーカーも熱い視線を送っている。

 リターンライダー層を狙ってホンダが開発したのが「CB1100」だ。3月の発売から2カ月余り、この間の受注台数は3000台(年間販売目標は 4000台)に迫る勢いで、同社の大型バイクでは久しぶりのヒット商品となった。「過度な性能を追わずに、ゆったり走ることを重視した」と開発を担当した本田技術研究所の福永博文氏は説明する。

 CB1100の最大の特徴は空冷式のエンジンを採用したことにある。水冷式に比べて冷却効率が劣る空冷エンジンは、これまでの性能重視のホンダの大型バイクでは敬遠されてきた。新型車ではそれを逆手に、高性能を捨てて独特のエンジン音や振動といった空冷ならではの長所を引き出した。冷却用部品が小さいことからエンジン周辺のデザインもすっきりとし、「所有する喜びを感じてもらえる」(福永氏)という点も40代から50代の支持を集めている。

 エンジンを中心に車体全体をコンパクトな設計にしたことも人気を博す理由の1つになっているようだ。排気量1140ccの大型エンジンを搭載しながら、車体重量は240kg強と、750ccクラスと同等。車高が低く小柄な人でも十分に足が届くため、取り回しの苦労も少ない。価格面でも99万7500円からという値頃感を打ち出すことに成功している。


安定した乗り心地を実現

 川崎重工業が昨年2月に発売した「ZRX1200 DAEG」も、ここまでの累計販売が約1600台と、2輪車不況の中で健闘している。国内専用モデルとして低重心で軽量な車体設計にすることで、走行時の取り回しの良さや安定した乗り心地を実現した。

 旧モデルである「ZRX1200R」の水冷式並列4気筒エンジンを改良し、伸びやかな高速走行に加え、中低速域の安定を両立させた。価格は112万円からと決して安くはないが、ベテランライダーから初心者、久しぶりにバイクに乗る人といった幅広いユーザーに満足のいく走りを提供している。

 これまで国内メーカーは速度や馬力といった走行性能の追求に明け暮れてきた。しかし、リターンライダー層の盛り上がりの中で見えてきたヒット商品の条件は、安定した性能のバイクに安心して乗ることに移り変わりつつある。ここに割安感をつけ加えれば中高年だけでなく、バイク離れが進む若年層の需要開拓も実現できるかもしれない。 <<日経ビジネス 2010年5月24日号42ページより>>

《追記》
  ☆本田技研工業情報「造形美を追求した端正なスタイリングと新開発の空冷エンジンを採用した ロードスポーツモデル「CB1100」シリーズを新発売」ここをクリック

business.nikkeibp.co.jp(2010-05-21)