サムスンを寄せつけぬ半導体
世界一は譲れない!日本企業が死守できる分野はここだ

 グローバル競争時代は、トップシェアでないと大きな利益は得られない。「2位では儲からない。3位以下は赤字」と言われるほど厳しい。 どうしたら世界一になれるのか、一度なった世界一の座に君臨し続けるためには何をしたらいいのか、5月24日号日経ビジネスで特集を組んだ。その関連記事として、日本企業が世界一を絶対に死守できる半導体事業を取り上げる。


 半導体メモリーや液晶ディスプレーで世界一のシェアを誇る韓国のサムスン電子が今年、総額約2兆1000億円という過去最大の設備投資と研究開発費を投じる。半導体と液晶に集中させることで、世界一の座をがっちりキープしようという狙いだ。

 もちろん、日本勢も黙ってはいない。NAND型フラッシュメモリーで世界第2位の東芝は、世界一奪還を目指すもようだ。もともと同メモリーを世に送り出し、数年前までは世界一の座にあっただけに、期待がかかる。

 カムコーダー部隊が支えるイメージセンサー

 それにしても、サムスン電子をはじめとする韓国企業や、台湾や中国の新興企業がグローバルでものすごい勢いで台頭している。このままいくと、メモリーやディスプレー以外の分野でもシェアを奪われかねない。

 ただし、同じ半導体でも、日本企業が世界一のシェアを誇っている分野がある。ソニーのイメージセンサーをはじめ、東芝のディスクリート半導体や三菱電機の半導体パワーデバイスなどだ。

 ちなみに、ソニーのイメージセンサーは、カムコーダー用が約85%、デジカメ用が約60%を誇る。前者は1983年以来、後者は98年以来世界一だ。

 とりわけソニーのイメージセンサーは、世界一を誇る社内のカメラ一体型ビデオ(カムコーダー)部隊に鍛えられて、世界一の座に君臨しつづけている。

 カムコーダー部隊は、世界一のシェアを確保するために、ユーザーが求める機能や性能を備える画期的な新製品をライバルに先がけて世に送り出している。それができるのは、カムコーダーのキーデバイスを作っている社内のイメージセンサー部隊が、厳しい要求に応え続けているからにほかならない。

 「必ず売れる製品」を1年前倒しで投入

 世界一と世界一が力を合わせることで生み出した象徴的な製品が、昨年2月に発売した、暗闇でも撮影できるカムコーダー「ハンディカムHDR-XRシリーズ」だ。数週間にわたって販売ランキング1位を続けるなど、大ヒットを飛ばした。2009年日経優秀製品賞にも選ばれた。

 このカムコーダーは、1年前倒しで製品化された。イメージセンサー部隊が暗闇でも明るい映像を撮影できるイメージセンサーを開発。その映像を見たカムコーダー部隊が「製品化したら必ず売れる」と確信したからだ。両部隊の責任者が協議して、1年前倒しを決めた。

 売れると分かっている製品を1年前倒しで投入できるメリットは計り知れない。世界一同士が力を合わせれば、2位以下を大きく引き離すことは可能だ。ソニーのイメージセンサー部隊は、社内の世界一に鍛えられ、今後も世界一の座に君臨し続けると思われる。

 社内で鍛えられた世界一のパワーデバイス

 1ワット以上の電力を制御できる半導体パワーデバイスの世界市場は約2000億円だが、三菱電機が約3分の1のシェアを持つ。なぜ三菱電機が世界一なのかといえば、ソニーのイメージセンサーとよく似ている。つまり、社内に強いユーザーがいて、常に鍛えられているからだ。

 例えばエアコン。今年、省エネ大賞を受賞するなど、インバーターエアコンでは三菱電機の評価は高い。高効率で低騒音、低振動の制御を得意とするインバーター制御では、キーデバイスの電力制御用パワーデバイスに対する要求は高い。

 消費電力を少しでも落とすために絶えず小型化が要求されてきた。大電流を扱うためにノイズが発生しやすく、いかに押さえるかも大きな課題なのだ。ノイズによってパワーデバイス自身が壊れたり、外部のデバイスに影響を与えたりする。ノイズ問題を解決できなければ、採用されない。

 要求性能をクリアーしても、品質保証期間10年の長期信頼性試験を通らなければならない。三菱電機でエアコンの開発を担当する村田充リビング・デジタルメディア技術部専任兼静岡製作所主管技師長はこう話す。

 「当社の信頼性評価は厳しい。このハードルを常にクリアーしなければならないので、パワーデバイス製作所(福岡県福岡市)のレベルは向上する」

 最終的に社内で必要なものを残した

 かつて「半導体のデパート」を目指した三菱電機は、2003年以降、事業の選択と集中を繰り返して「最終的に社内で必要なものを残した」(西村隆司パワーデバイス製作所所長)。

 システムLSIはルネサステクノロジー(現ルネサスエレクトロニクス)に、メモリーはエルピーダメモリにそれぞれ移管した。パワーデバイスを残したのは、三菱電機が得意とするモーターの制御に欠かせないからだ。

 西村所長は言う。「パワーデバイスはエアコンや電車、エレベーターの性能を決めるキーデバイス。しかも、どこの会社でも簡単に作ることができない。だから残った」

 もともと強かったパワーデバイスだけに、強い社内ユーザーから真っ先に声がかかるファーストベンダー(最優先部品供給者)。だから社内ユーザーが求める仕様に常に応えながら、レベルを維持・向上させてきた。それが評価されて、三菱電機と肩を並べる社外の主要なユーザーから注文を受ける。

 新興勢力は怖くない

 例えば、インバーターエアコン用パワーデバイスのシェアは5割を超える。社内を中心に強力なユーザーに鍛えられ、厳しい要求に絶えず応え続けてきた結果だ。

 「新興勢力は怖くない。同じ装置を買ってきても当社と同レベルの製品は作れないだろう。長年のノウハウが生きる領域だ」と西村所長は言い切る。

 今後も社内ユーザーの厳しい要求に応え続けていけば、世界一の座を維持できる可能性は高い。中国のエアコンも、インバーター化率が高まりつつある。将来的には電気自動車の市場が急成長する。

 拡大する成長市場の中で世界一の性能と信頼性を確保していけば、三菱電機のパワーデバイス事業は2015年に目標の1500億円を超え、さらに伸びていくだろう。

business.nikkeibp.co.jp(2010-05-20)