【すごいぞ!ニッポンのキーテク】
自宅で水素燃料チャージ ホンダ「FCV」

 次世代エコカーの本命とされながら、ハイブリッド車(HV)や電気自動車(EV)に比べていまのところ目立たぬ存在になっている燃料電池車(FCV)。水素と酸素の化学反応で電気を生みだし、モーターを回して走る。ホンダはFCVを未来の生活の一部と考え、環境技術の大きな柱として開発を進める。

 その一つが、今年1月に発表した家庭用の「次世代ソーラー水素ステーション」の実証実験だ。ホンダの米研究開発子会社(カリフォルニア州)がガレージに収まる家庭用サイズの水素ステーションを開発し、実用化を目指して実験を始めた。

 従来型のソーラー水素ステーションは2001年から同社の施設で稼働している。従来型は水素を製造する大型の水電解装置と、そこで発生させた水素を圧縮して車に供給するコンプレッサー(圧縮機)が必要だった。ホンダは今回、独自技術により水素製造と圧縮を一体化することに成功し、コンプレッサーを不要とした。この高圧水電解システムにより小型化や低騒音化、低コスト化を実現できるという。水素を貯蔵する高圧水素タンクを用いないシステムとすることで、システム全体もさらに小型化。実用化に一歩近づいた。

 家庭用の水素スタンドが実用化すれば、8時間の水素供給でホンダの燃料電池車「FCXクラリティ」が約50キロ走行できる。FCXクラリティは2007年11月、米ロサンゼルスの自動車ショーで初めてベールを脱いだ。08年7月から日米でリース販売を始め、3年間で200台程度を目標としている。1台当たり1億円とされる車体価格を、10年以内に1000万円を切る価格に引き下げることを視野に入れている。

今回、実験を始めたステーションの特徴の一つが、水素を製造する電力を太陽電池で賄おうと考えていることだ。燃料電池の燃料となる水素は、ガソリン、メタノール、ナフサ、LPG(液化石油ガス)などさまざまな原料から製造できる。これら原料を太陽光や風力といった再生可能エネルギーで発電した電力を使って電解して水素をつくれば、より環境にやさしくなるとの考えからだ。

 使用する太陽電池は、関連会社「ホンダソルテック」が開発した「薄膜モジュール」を使う。FCXの燃料製造時から走行時までを含めて二酸化炭素(CO2)排出量をゼロにする。これがホンダの狙いだ。

 自動車業界関係者は「ホンダは燃料電池を究極のクリーンパワーととらえ、FCV開発に積極的」と評価する。将来の水素社会実現に向け、自動車の動力用にとどまらず、家庭で消費するエネルギーなど近未来の生活全般をみて技術開発に取り組んでいるからだ。

 ただ、ホンダが09年2月にHV「インサイト」を発売。その後もトヨタ自動車の新型「プリウス」も続くなどエコカーの話題はHVに移った。昨年にはEVも発売されたが、ホンダは走行距離が短く充電時間が長いことなどを理由にEVの早期普及には懐疑的で、現時点で実現できる環境技術としてHVに注力。このため、コスト面で大きな課題を抱える燃料電池車の影は薄くなったといえる。

 それでも、ホンダは燃料電池の研究開発費を大幅に削ることはない。伊東孝紳社長も「究極の次世代エコカーはFCV」という認識は変えておらず、「次の次」のエコカー競争を制覇しようと地道な研究開発を続ける。(鈴木正行)

sankei.jp.msn.com(2010-04-03)