“日の丸ジェット”に逆風
ホンダは1年延期、三菱は受注獲得に苦労

 世界市場に挑戦する日本のジェット機が逆風にさらされている。

 「『ホンダジェット』の事業計画は1年遅れる見通しだ」。ホンダの伊東孝紳社長はこう明かす。

 ホンダは経済環境の悪化を受け、昨年末に「フォーミュラ・ワン(F1)」から撤退したものの、小型ジェット機事業は予定通りに進める計画だった。2010年中を予定していた機体の引き渡し開始は、約1年遅れて2011年10〜12月期になる見込みだ。ホンダジェットは7〜8人乗りの小型機で、ホンダはエンジンと機体の開発を手がける。

 「主要部品の開発が遅れており、米連邦航空局(FAA)からエンジンと機体の認証を取るのに時間がかかっている」(ホンダ)ことが主な理由だが、別の懸念も生じている。

ホンダの提携先が経営不振

 米国発の経済危機で、小型ジェット機市場が変調を来していることだ。ホンダは米小型機メーカーのパイパー・エアクラフトと提携して、ホンダジェットの米国における販売網とアフターサービスの展開を進めていた。

 しかしパイパーは経営が悪化して、今年5月に投資会社に買収された。地元自治体に3200万ドルの金融支援を要請。ホンダとの協力関係については現時点では変更がないものの、今後は影響が出る可能性もある。

 ホンダはジェット機事業の本格展開を加速している。事業を担当する米子会社、ホンダ・エアクラフト・カンパニーの藤野道格社長は、6月にホンダ本体の執行役員に昇格。ジェット機事業とは独立した形で展開するエンジン事業でも、米ゼネラル・エレクトリックと合弁会社を作り、開発、販売、サービス網の構築を急いでいた。

 ホンダは米国、カナダ、メキシコ、欧州で販売を始めており、既に100機以上を受注。「景気が悪化しても、現時点でキャンセルはほとんど出ていない」(ホンダ)という。

 ホンダジェットの強みは、独創的なアイデアで実現した性能にある。一般的なジェット機と違って、主翼の上に2機のエンジンを配置する構造で、空気抵抗を低減。高効率のエンジンも独自開発し、競合する小型ジェット機と比べて、燃費を約2割改善した。燃費効率が高いので、環境への負荷も小さい。

 最高時速は778km。700km以下が一般的なこのクラスのビジネスジェットよりも、約1割高めている。

 2011年中にホンダは年産70機の生産体制を整え、その後年間100機に引き上げる予定だ。2012年までに、開発、生産、販売を合わせて約500人の体制を整える。小型ジェットの主要顧客である富裕層や企業の需要が減退する中でも、目標を変えていない。

購入表明したのは全日空のみ

 三菱重工業が中心になって設立した三菱航空機も、小型旅客機「MRJ」の顧客獲得に苦労している。

 ホンダと同様に技術力を武器にする。70〜96席の小型旅客機で、ライバルの飛行機と比べて燃費を2割強改善。低騒音であることも、規制がある空港に就航する際に売りものになるという。

 約1500億円とされる開発費の3分の1を、経済産業省などが支援。官民一体で売り込むが、航空会社の業績が低迷する中、受注先の獲得にはハードルがある。6月に仏パリで開かれた航空ショーでは新規受注を発表できそうだったが、まとまらなかった。

 現時点では全日本空輸が25機を購入することを明らかにしている以外に受注は決まっていない。「商談は増えており、受注に向けた手応えを感じている」(三菱航空機)が、採算ラインとされる350機を超えられるかどうかは未知数だ。MRJの引き渡しが始まる2013年以降に3000機が見込まれる市場で、3分の1のシェア獲得を三菱航空機は目指している。

 景気低迷という乱気流に直面する日の丸ジェット。ホンダ、三菱ともに長年の夢だけに、成功にかける執念は強いが、離陸は簡単ではない。<<日経ビジネス 2009年8月3日号11ページより>>

nikkeibp.co.jp(2009-07-30)