「静かすぎる」HVに発音装置検討 国、障害者指摘受け

  
 モーターで動くため低速ではほとんど音がしないハイブリッド車(HV)に、警笛よりも小さな音で危険を知らせる装置を装備する検討を国土交通省が始めた。接近しても視覚障害者や子ども、高齢者らが気付かず、事故の危険性があるからだ。HVは「エコ減税」を追い風に売り上げ好調。「静かさ」も長所だが、安全には代えられないと判断した。

 HVの「静かすぎる危険」は海外でも問題になっている。米国の運輸省も視覚障害者団体などの要請を受けて調査を開始。国連の自動車基準調和世界フォーラムでも検討課題になっている。日本はHVで世界をリードするだけでなく、危険な狭い路地が多く、対応を迫られていた。

 例えばトヨタ自動車のHVは発進時や低速走行時、電気モーターだけで走る。騒音はエンジン車よりも最大20デシベルも低く、住宅街では通常の生活音でかき消されてしまうほどだ。トヨタなどにも「知らない間に車が近づきハッとした」などの苦情や意見が3〜4年で60件程度寄せられたという。

 とくに、目が不自由な人には深刻だ。日本盲人会連合によると、事故に遭ったとの報告はないが、「車が近づくまで気づかず、急にクラクションを鳴らされて驚いた」といったケースは日常的にあるという。

 一方、トヨタの調査では、ドライバーも、発進しようとしても車の目の前で立ち話している人がどいてくれない▽駐車場で遊んでいる子どもが気づかない▽いきなり歩行者が進路に入ってくる――と感じていて、約7割が発音装置が必要と考えていた。

 同社では07年、走行中に「チャイム音」が常に鳴るHVを走らせて効果を検証。一定の効果はみられたが、「音が不快」との意見も多かった。視覚障害者からは「音は聞こえるが、車だと思わなかった」との指摘もあった。

 ホンダもHVのインサイトを生産しているが、トヨタと方式が違うため、低速でもエンジンが稼働する。今のところ問題は起きていないが、同社は「将来的には静音性の問題に対応しながら開発を進める必要がある」としている。

 国交省は今月から、有識者や業界関係者を集めた検討会を立ち上げた。運転手が危険を感じたときや発進時などに適度な音を出す「第二のクラクション」を装備する方向で話を進めている。だが、運転手の「鳴らし忘れ」が責任問題に発展する可能性もあり、「常に自動的に音を出すべきだ」との意見もある。

 装備の対象には、すべてモーターで走る電気自動車(EV)も含まれる。音はチャイムのほかブザー、メロディー、疑似エンジン音などが候補で、8月に実験車を使って検証する。装置を法律で義務化するかや音の種類、統一基準作りなどについて、年内に方向性を示す意向だ。(佐々木学)

asahi.com.(2009-07-15)