北方領土返還「3・5島でいい」
前外務次官の発言巡り波紋

 
 前外務次官の谷内正太郎政府代表が北方領土問題をめぐり、北方4島全体の面積を日露双方が折半して領土問題を解決する案を示したと毎日新聞が報道し、政府・与党に17日、波紋が広がった。

 政府は「谷内氏の個人的見解」(河村官房長官)と火消しに躍起だが、谷内氏は麻生首相の意を受けているのではないかとの見方もくすぶっている。

 17日付毎日新聞朝刊のインタビューによると、谷内氏は「3・5島(返還)でもいいのではないか。北方4島を両国のつまずきの石にしない」と発言した。

 1956年の日ソ共同宣言に基づく解決案として露側が示している歯舞、色丹の2島返還を引き合いに、「2島では全体の7%に過ぎない。択捉島の面積が大きく、面積を折半すると、3島プラス択捉島の20〜25%ぐらいになる。実質は4島返還になる」とも語った。  訪米中の谷内氏は16日夜(日本時間17日午前)、記者団に「ロシアが『協力がこれだけあるなら4島を返還してもいい』ということも理論的にはある。日本も『これだけ得るものがあるなら、4島にこだわることもない』となることもある」と述べ、エネルギー協力関係なども勘案して領土問題を解決すべきだとの考えを強調した。

 中露の国境紛争では、問題の地域を2等分して国境を画定させた経緯があり、谷内氏にはこの例が念頭にあると見られる。  政府は谷内氏の考えに否定的だ。河村長官は17日の記者会見で、「北方4島の帰属の問題を解決し、ロシアと平和条約を締結する。これが基本方針だ」と、4島を返還対象とする政府の方針に変わりはないと強調。外務省幹部も「記事は領土問題をミスリードしている」と指摘した。

 ただ、麻生首相は外相時代に「面積2等分論」を持ち出したことがある。谷内氏の政府代表就任も「首相の強い意向」(首相周辺)とされる。2月のメドベージェフ露大統領との首脳会談では、「新たな独創的で型にはまらないアプローチ」での領土問題解決を目指す方針で一致しており、5月に来日するプーチン露首相や、7月にイタリアで開かれる主要国首脳会議の際の大統領との首脳会談では、麻生首相が2等分案を交渉カードに使うのではないか、との見方も出ている。

 麻生首相は17日夜、記者団に、政府方針に変更はないとした上で、「北方4島の話は帰属の問題がはっきりしさえすれば、後は柔軟に考える」と語った。ただ、与党内には「筋を曲げてロシアに妥協すれば、世論の強烈な批判を招くかもしれない。衆院選も近く、あまりにも危険な賭けだ」と懸念する声も出ている。

読売新聞(2009-04-17)