ホンダのアキレス腱
米在庫の適正化が、黒字死守の試金石に

 
 逆境の自動車業界で業績の底堅さが目立つホンダ。2009年3月期に、トヨタ自動車と日産自動車は巨額の赤字を見込むが、黒字を確保しそうだ。

 そんなホンダのアキレス腱と言えるのが、米国の在庫問題である。

 今年3月末の在庫日数は、トヨタの64日、日産の62日に対して、ホンダは92日と突出している。北米は、2008年3月期にホンダの連結営業利益の5割近くを稼ぎ出した大黒柱であるだけに、問題は深刻だ。

 なぜホンダは、在庫調整が遅れたのか。最大の理由は、米国でクルマ販売の減速が鮮明になった昨年春以降も、同社の販売好調が続いたことにある。原油高を追い風に、「シビック」や「フィット」など低燃費の小型車が売れに売れた。対照的に、トヨタと日産は、燃費で見劣りするSUV(多目的スポーツ車)やピックアップトラックの比率が高く、苦戦した。

「ガソリン高でも好調」が裏目に

 販売不振を受けてライバルが、減産に踏み切る中、ホンダは逆に小型車を増産する方向に動いた。米インディアナ州で建設中だった新工場の稼働計画も、予定通りに進めた。

 ところが昨年9月に米リーマン・ブラザーズが破綻し、金融危機が表面化すると状況は一変した。消費者の購買意欲は冷え込み、原油価格は急落。低燃費の小型車でも売れなくなった。そんな中で増産体制が整い、ホンダの完成車の在庫は積み上がっていった。

 「米国では、ホンダのブランド、商品、販売力が極めて強く、在庫調整は段階的になった。工場の長期休業を決めた欧州とは対照的だ」(UBS証券の吉田達生シニアアナリスト)

 米国の販売低迷が長期化する中、ホンダは生産調整を急いでいる。3月までに北米の工場稼働率を7割程度に落とした。5〜7月も、米国とカナダの工場で、13日間の稼働休止日を設ける。6〜7月までに在庫を適正水準の60日以下にしようと躍起だ。

 さらに、在庫削減のために販売奨励金も積み増している。3月は1台当たり1782ドル。前年同月比で55%増加した。米ビッグスリー平均の半分以下で、日産より約900ドル少ないが、トヨタを約200ドル上回る。堅実な販売で知られるホンダでは異例の水準だ。

 では、ホンダの米国の在庫問題は致命傷になるのだろうか。

在庫が“武器”になる可能性も

 意外なことにアナリストの間では楽観論が根強い。「ホンダの在庫は今後売れる可能性が高い低燃費の中小型車が多く、心配していない。トヨタと日産は、トラックやSUVなど売りにくい在庫の比率が高い。中身が違う」とJPモルガン証券の中西孝樹シニアアナリストは見る。「(ホンダの在庫には)リスクもあるが、需要回復時の機会損失は少ない」とUBSの吉田氏も不安視していない。

   米国のクルマ販売に追い風が吹く期待も高まっている。燃費の悪いクルマを廃車にして、低燃費車を購入する際に、補助金を出す支援策が議論されている。欧州などで効果が出ており、日本でも導入が決まった。

 1台当たり最大5000ドルで検討されている補助金の対象になりそうな低燃費車の在庫が、ホンダには多い。シビックとフィットの在庫は100日を超えるが、補助金が定額の場合、高級車よりも値引き率が高い低価格車は売りやすい。

 補助金は、米国で生産するクルマだけに支給される可能性もある。それでも北米のホンダの現地生産比率は約8割で、トヨタの5割強より高く、有利な立場にあることに変わりはない。

 もちろん新たな支援策で、米国のクルマ販売が上向くかどうかは予断を許さない。欧州や新興国と比べても、経済減速の打撃が深刻で、環境は厳しいからだ。在庫問題を災い転じて福と成せるのか。それが、今期もホンダが黒字を死守できるかどうかを見極める試金石になりそうだ。 <<日経ビジネス 2009年4月20日号8ページより >>

nikkeibp.co.jp(2009-04-16)