トヨタがロボット技術を生かして
「2輪車」に進出

 トヨタ自動車が立ち乗り型電動2輪車の試作モデルを報道陣に公開した。ロボットの技術開発から派生したもので、姿勢保持や速度制御などにその技術が生かされている。数年先には市販化を視野に入れており、自動車事業との相乗効果も狙っていく。


 名称は「ウィングレット(Winglet)」。試作モデルは3タイプが公開された。操作ハンドルを手で握るものや、両足の内側で挟んで操作するタイプなどだ。いずれもタイヤの直径は約16センチ。駆動装置は回転数や逆回転をキメ細かく制御できるサーボモーター2基をホイールインの状態で装着している。

 バッテリーはリチウムイオン電池を搭載し、1時間の充電で最高10キロ航続できる。前後進の操作は、ステップ(足置き)の上で体重を前後にかけることで行う。つま先にかけると前進し、逆にかかと側だと後進する。減速や静止は体重をニュートラルにすればよい。

 左右へのコーナリングは、ハンドルを左右にスライドさせて操作する。この時、両足のステップはコーナリングする方向へと傾斜している。ちょうどスキーで旋回する時に、2枚のスキー板が傾斜するのと同じだ。

 人の歩行と融和するように、最高時速は6キロに設定。登坂能力は20度までで、坂を上り下りする時も、ステップは常に地面と水平に保たれ、乗員の態勢は安定している。ここに姿勢センサーやコンピューター制御などロボットの“カナメ技術”が採用されている。

 譲り受けたソニーのロボット技術を採用
 トヨタは昨年3月、AIBOに代表されるソニーのロボット事業の譲渡を受けており(ソニーはロボット事業からすでに撤退)、立ち乗り式の2輪ロボットを開発していたソニーの技術が生かされた。ウィングレットに採用されている特許は約100件だが、うち40件はソニーから譲渡されたものだという。

 さて、筆者は操作ハンドルを手で持つタイプに試乗してみた。まず、インストラクターから操作方法を教えてもらったが、2分ほどでOKが出た。旋回やスラローム、坂の上り下りなどの試走コースを10分ほど走った(移動した)が、実に楽しい。

 人間は思いのままに移動することが本能的に喜びにつながるのだな、と実感させられる。コーナリングは、まさにスキーの感覚だ。直滑降しかできない筆者だが、スキーの得意な人は簡単に操作できるだろう。適度な運動にもなり、翌日は情けないことに内腿筋に、ややシコリを覚えた。

 ウィングレットは空港内やレジャー施設あるいはショッピングモールなどでの利用を想定しており、今年秋から順次、そうした施設内での実証実験を始める。人が混雑する中でも歩行者との調和が図れるよう、コンパクトにしたのも特徴だ。

 重量は「セグウェイ」の約3分の1
 投影面積はA3用紙ほどであり、占有スペースは歩行者と同等。米国メーカーが開発した電動2輪車「セグウェイ」に比べると重量はほぼ3分の1で、投影面積もコンパクトにしている。

 今後は、移動目標地点などの情報を提供するナビゲーションの搭載のほか、障害物の検知や自動回避といった自律制御機能の開発も進めていく。試作機の重量は10キロ前後なので、軽量化も課題となる。また、現行の道路交通法ではこうした2輪車が公道の歩道を走ることはできず、法整備も必要となる。

 価格は「コスト積み上げ方式ではダメで、実証実験で寄せられる利用者の方の反響から探りたい」(ロボット部門担当の内山田竹志副社長)という。恐らく20万円前後が1つのターゲットになるのだろう。

 近い将来には、トヨタディーラーの店頭にもこの2輪車が展示される日が来る。内山田副社長は「小さい子供さんにも乗ってもらって、移動体への関心を持ってもらえれば」との期待も込めている。

 モビリティーの楽しさに幼少時から接すれば、将来、自動車への関心も高まるというわけだ。ウィングレットは、自動車業界では深刻となっている若年層のクルマ離れにストップをかける特務も担う。

nikkeibp.co.jp(2008-08-04)