ホンダもハイブリッドを大展開
日本発の技術がパワートレーンの新たな歴史を刻む

 ホンダがハイブリッド車(HV)の大展開計画を公表した。量販型の専用車を投入するほか同社のワールドカー「フィット」にも設定、2010年代前半に年50万台の販売を目指す。トヨタ自動車は2010年代の早期に100万台を目指しており、両社の新車のうちほぼ1割がHVとなる。1990年代にいちはやくHVの量産に着手した日本2社が、純内燃機関に代わる新たなパワートレーン(動力システム)の歴史を刻む格好となる。

 ホンダのHVは現在「シビック・ハイブリッド」のみで2007年の世界販売は約5万6000台だった。1997年に「プリウス」を投入したトヨタは約8倍の43万台に達している。ホンダはトヨタに2年遅れで事業化に踏み切ったものの、採算を重視して車種展開を絞ったため、世界2番手のHVメーカーでありながら、1位とは大差がついた。

 そのホンダが攻勢をかけるのは、モーターなど主要コンポーネンツの軽量化や大幅なコストダウンが実現でき、顧客にも同社にも「ビジネスとして健全に成立する体制」(福井威夫社長)が整ったからだ。

 車両価格で言えば、同等の動力性能を持つガソリン車との価格差は40万円レベルから20万円以下になる。燃費性能が倍近く向上するのを勘案すれば、顧客にも「経済的メリットで合理的に選択してもらえる」(同)というわけだ。  HV用のモーターは鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)で内製しており、新モデルのために生産効率を引き上げたラインを増設した。単位時間当たりの生産量は従来のラインに比べ、2倍以上に向上したという。

 プリウスよりも相当安い価格設定になる?

 HV専用の新モデルはファミリーカーとして2009年早々に日本や北米に投入、年20万台の販売を計画している。HVに限らず、単一モデルで年20万台というのは、車業界では「ヒット車種」に色分けされる。それだけ、ホンダにとっては自信作ということだ。

 2BOXタイプの5ドア5人乗りで、制御ユニットや2次バッテリーは荷室の下に配置する新プラットホーム(車台)を開発した。発電機も兼ねるモーターは、基本的にエンジン動力をアシストするだけというホンダのハイブリッドシステムは、トヨタのシステムよりシンプルだ。

 その分、小型・軽量化も可能で小型車にも設定しやすい。新モデルは「居住空間や荷室を全く犠牲にしないレイアウトができた」(4輪事業本部長の伊東孝紳専務)という。

 注目の価格は、これは筆者の推定だが、ベースモデルで200万円を切るのだろう。少なくとも220万円台から320万円台の「プリウス」よりは相当安くなると見ている。

 この新モデルに続いて2010年には、昨年の東京モーターショーに出品したコンセプトモデルの「CR-Z」をベースにしたスポーツタイプも投入。さらに同年以降には「フィット」にもHVを設定する。

 フィットへのHV設定について福井社長は「既に各地で海外生産するワールドカーなので、HVの海外生産も展開しやすい」ことと、「欧州のCO2(二酸化炭素)規制強化」をにらんだ措置と説明する。欧州向けのフィット(現地名「ジャズ」)は中国・広州市の「本田汽車(中国)」などで生産しており、近い将来にはHVの海外生産も実現しそうだ。

 一方のトヨタも2009年には主力車種のプリウスを全面改良し、コストダウンを反映した新価格で投入するほか、上級クラスの専用モデルも新たに発売する。トヨタのHVはガソリン価格の高騰を背景に、最大の販売先である米国で一大ブレーク期を迎えている。

 ここ数カ月は同社の新車販売のうち実に15%前後がHVで占められているのだ。ホンダの新モデル投入は強力なライバル登場ともなるが、むしろ両社にとっては顧客をHVに注目させるという相乗効果の方が大きいだろう。

 下がる気配のない原油価格という強い追い風も受けながら、2009年からは日本メーカーの技術がクルマのパワートレーンの歴史を変えていく。

business.nikkeibp.co.jp(2008-05-23)