ホンダに見るカーナビの進化
主要道の開通をカーナビに即時反映

 「ユーザーがカーナビに求める情報サービスを調査した結果、最も要望が強かったのは、最適な経路案内と地図情報の更新だった」。こう語るのは、ホンダのカーナビ事業を推進する同社インターナビ推進室室長の今井武氏である。同氏は、「セミコン・ジャパン2007」(幕張メッセ、2007年12月5〜7日)でホンダのカーナビゲーションへの取り組みについて特別講演を行った。今後、第2東名、名神、圏央道(一部開通)など全国道路ネットワークに大きな影響を与える道路が順次開通するが、これら道路は開通と同時にカーナビで使用できるべきであるという。ホンダでは、こうした問題意識から「主要道リアルタイム地図更新」サービスを開始した。主要道の開通後、ドライバーは更新された地図の使用がカーナビで即時に可能となる。 (白石泰基=テクノアソシエーツ)

 カーナビの有効性を一層向上
 このようなサービスが開始されたことの意義は大きい。ホンダが提供する会員向けカーナビゲーション・サービスは、車両をセンサーとして通信機器経由で走行データをセンターに収集する。収集した情報は、ドライバーの最適なルート誘導に加えて、災害発生時の道路通行状況の把握や道路整備の効果測定といった行政への活用が始まっている。変更のある道路ネットワークがカーナビに即時に反映されることにより、各車両は最新の道路情報に基づいて誘導され、その走行データがセンターに収集される。このような仕組みが整うことにより、カーナビの有効性は一層向上し、さらに広い範囲で活用が促進されることが期待される。

 データ構造から見直した地図差分更新技術
 「主要道リアルタイム地図更新」を可能にしたのは、地図差分更新技術と新しい地図データ制作工程の二つの取り組みである。地図差分更新技術は、地図データの変化分のみを更新する。従来の地図データは、「画像データ」、「道路ネットワークデータ」、「経路計算用データ」、「施設検索用インデックスデータ」など多層のデータから構成されていた。カーナビに道路を追加する場合は、これら全てのデータを一括変更する必要があった。そのため、従来地図データの更新は、ユーザーからカーナビのHDDを預かり「書き換えセンター」で対応しており、約1週間かかっていた。

 そこで、今回導入した地図差分更新技術では、地図のデータ構造を見直した。地図データを機能別に細分化することで、データの差分更新が可能となった。差分データの容量は、10KB〜数MBとなり、サーバーからのデータのダウンロードに必要な時間は数十秒から数分で済む。

 工事図面と航空写真を使用し、地図データをデジタル化
 さらに、ホンダは地図データ制作工程も見直した。従来の制作工程では、地図データの収集は現地実走調査を行っていたが、道路の開通を待たなければならず、地図データの完成は開通から数ヶ月以上かかっていた。新しい制作工程では、現地実走調査は工事図面と航空写真を使用することで置き換え、開通前に地図データが作成できるようになった。今井氏らは、この方法でデータの精度に問題がないことを1年以上かけて検証、2007年10月よりサービスの運用を開始した。

 このようなホンダの取り組みに対して、行政も新しい動きを見せている。沖縄県では、新しい商業施設や道路の建設が続いており、県外からの旅行者の運転車両が道に迷うケースが多く発生している。内閣府の沖縄総合事務局は、地図データを作成する事業者などを支援する目的で、ホームページ上で道路図面情報の無料ダウンロードができる仕組みの提供を始めた。県や市など各道路管理者は、このサイト上に計画図、発注図、完成図などの各種の図面データを掲載する。これにより、従来、地図データ作成事業者が道路管理者に個別に依頼しなければならなかった工事図面の入手が大幅に簡略化された。

nikkeibp.co.jp(07-12-14)