白馬、オーストラリア化?

 スキー観光の不振に苦しむ長野県白馬村で今冬、異変が起こっている。オーストラリア人を中心に、外国人の予約が昨年同期に比べて5割増し。さらに、廃業した宿を豪州人らが買って、相次いで開業するのだ。98年冬季五輪会場になった日本を代表するスキー場の村は、にわかに国際スキーリゾートへと変身の兆しを見せている。

  「今シーズン、白馬村は国際リゾートとしてブレークしますよ」

 豪州のスキーヤーが殺到して有名になった北海道ニセコ、倶知安(くっちゃん)両町。そこの開発を手がけた業者と提携し、白馬村和田野地区で外国人向け別荘地の分譲を始めた松本市の不動産会社の担当者が、そう断言した。この不動産会社は外国人のアフタースキー対策として、100人以上収容できるパブも開業する。

 和田野は八方尾根スキー場のふもとにある。豪州人ミック・コテフスキさん(30)夫妻もペンションを買って今月、開業する。11月初旬に白馬に移住し、建物の改修におおわらわだ。夫妻はニセコの豪州系不動産会社で働いていたが、豪州人であふれる現状に嫌気がさしたという。

 「ニセコは日本じゃなく、リトル・オーストラリア。不動産は高くなりすぎたし、無計画な開発で狭いところに高い建物ができて、眺めも悪くなった」

 宿を開業する外国人は若くて活力に富み、インターネットでの発信力や母国語での電話対応など営業力がある。カナダ人のクレイグ・オルドリングさん(33)と、英国人のマット・ダンさん(31)は共同で昨年、和田野に宿を開業した。今季はすでに、来年3月中旬まで予約で埋まった。

 「リフト券や宿泊料、食費が割安な日本の中でも、ハクバは、雪質の良さや上級者に滑りがいのある難しい地形、素晴らしい山岳景観に恵まれている。情報が広まれば、間違いなく国際的なリゾートになる。欧州からも客を呼べる」。2人は自信たっぷりに言う。

 村内には、廃業や経営難から売りに出されたペンションなどが多い。これまで売れなかったのが、ここにきて突然、物件が動き始めた。地元不動産業者はこの1年で、豪州人を中心に外国人との取引が二十数件あったという。和田野では今季、外国人オーナーのペンションが少なくとも5軒は開業する。

 外国人観光客の増加の兆しは、05年からあった。のべ宿泊者数は前年の3倍強の3万2500人に膨らんだ。06年も3万3500人。国別では韓国が42.6%、豪州が21.6%と続く。ツアーで来る韓国人は1人当たりの単価が低いのに対し、豪州人らは滞在日数が長く、泊まる宿のグレードも高いから経済効果が大きいという。

 地元ではスキー客の減少対策として、和田野を中心に11軒の宿泊施設が「ハクバ・ツーリズム」を結成し、豪州を標的に誘客を始めて3年目に入った。今年9月末の時点で、昨年の1.5倍の予約が入ったという。

 ただ、豪州人らの進出を地元は歓迎する一方、戸惑いも隠せない。

 飲食店や宿泊業者などでつくる白馬食品衛生協会の食品衛生推進委員が営業施設を回ったところ、外国人がオーナーの施設は30軒近くあったという。大町保健所に飲食店や旅館業の営業許可申請があったのは、いまのところ5件。日本の法令を知らない外国人の施設で食中毒などが起こることを心配した同協会は急きょ、外国人経営者を対象に、開業や食品衛生の指導をする説明会を13日に開くことにした。

 ペンションを経営する渡辺俊夫村議は「国はどこであれ、人が来たり資本が入ったりするのは歓迎する。だが、最近までのスキー低迷で宿の経営に疲れきった人が、これを機に次々と売りに出すのが心配だ」と、乱開発を懸念している。

 渡辺さんらは最近、県景観条例に基づく和田野地区の景観形成住民協定を改定した。建築や緑地保全の基準をより厳しくし、協定書の英文版の作成や、参入する外国人に協力を求めていくことなどを決めた。

 和田野地区の外国人客は豪州人に偏っているという。ハクバ・ツーリズム会長で、地元のホテル支配人の渡部修さんも「豪州への集客努力が実り始めたともいえるが、豪州人だけというニセコの二の舞いは困る。やはり日本人客が中心で、様々な国からのお客さんがいる、というのが本来の国際リゾートだと思う」と話している。      

asahi.com(2007-12-11)