デザイン現場はハイテク花盛り

 先日,ホンダの二輪開発センターを見学する機会をいただきました。しかも,通常は従業員ですら関係者以外立ち入り禁止とされているデザインセンターを見ることができました。当然,公開できないものはたくさんあるでしょうから,見学できたのはごく一部でしたが,それでも見ごたえはありました。

 中でも興味深かったのが,クレーモデルの造形作業に7軸の垂直多関節ロボットが活躍していたこと。説明員の方によると,同社の場合,ベースを発泡材で作り,その上に多めの粘土を盛って,垂直多関節ロボットで削っていくそうです。ロボット化しているのは荒削りの工程で,その後は人手での仕上げ。ロボットによる荒削りの作業は,デザイナーが会社にいる時間だけ行い,1台当たり約1週間かかるとのことでした。ちなみに,タイヤやフレームは粘土ではなく実物を使うという話です。

 7軸の垂直多関節ロボットを使うのは,入り組んだところまで削れるようにとの配慮から。ロボットの先端に粘土用のエンドミルを取り付けて削る仕組みになっています。5年前に実用化したシステムで,専用のCAMを三菱電機と共同で開発して実現したシステムだそうです。外部に公開するのは,このときが初めてと仰っていました。

 もう一つ興味深かったのが,二輪車のデザイン検討に使うVRのシステムです。同社では,デザイナーが描いた2次元のスケッチを基に3次元モデルを作成。そのデータを利用して街中での見え方などをVRシステムで立体的に映し出し,デザインの良しあしを検討しているそうです。デザインセンターには,正面/床面/右側面に大型のスクリーンを配した幅3×高さ2.4×奥行き2.4mほどのVRシステムがあり,立体視のためのメガネをかけて立体映像を見られるようになっています。今回は,ホンダの青山本社の前に置かれた排気量1800ccの「ゴールドウイング」の立体映像を見させていただきました。

 同システムでは,立体視用のメガネが本体とコードでつながっており,視点に合わせて映像が変化する仕組みです。バイクを上から眺めるような姿勢を取ると,バイクの上面からの映像となり,バイクにまたがって乗るような姿勢を取ると,バイクに乗っているような映像となります。実物大の立体としても見られるため,車体の大きさ感やハンドルの高さをチェックしたりもできるそうです。

 こうしたハイテクがデザイン現場にどんどん入り込んでいることは,話としては聞いていました。でも,実際にその現場を目にすると,やはり感慨深いものがありました。「産業用ロボットは,生産現場だけでなくデザインの現場でも活躍する時代になったんだ」とか「VRシステムは思ったよりも身近な存在になってきているんだ」とか……技術の進化のスピードをあらためて思い知らされた次第です。 <<富岡 恒憲>>

日経ものづくり(2007-12-12)