ホンダ、「汎米州」の連携戦略を加速

 ホンダが米大陸を網羅的かつ有機的に連携させる事業戦略を加速している。今年秋にはメキシコ工場の生産能力増を図ったほか、南米では2番目の4輪車拠点となるアルゼンチン工場の建設に着手した。

 従来は最大の収益源である北米でのオペレーションを優先してきたが、新興市場として潜在力を持つ南米との補完関係を強化し「汎米州」としての成長路線を描く。

 メキシコ工場が年2万台増産、生産車種は「CR-V」に
 「北米大陸と南米大陸の中間に位置し、多角的なFTA(自由貿易協定)を締結しているメキシコのポジショニングを最大限生かしたい」。11月、福井威夫社長は年産3万台から5万台へと能力を拡大したメキシコ工場を訪問し、同工場が果たす役割の大きさを強調した。

 メキシコ工場は今回の増産対応を機に、生産車種を従来の「アコード」からSUV(多目的スポーツ車)の「CR-V」に切り替えた。「CR-V」は世界の小型SUV市場で圧倒的な人気を得ており、年販売は40万台を突破、「シビック」「アコード」に次ぐ同社の中核商品だ。

 メキシコ製「CR-V」は品薄が続く米国への出荷が始まったが、年明けからはブラジル、アルゼンチンといった南米への輸出も開始する。福井社長が指摘するように、メキシコが多角的に進めてきた自由貿易協定の利点を生かした措置だ。

 メキシコは1992年にまずチリとの間で協定を発効、94年には米国、カナダとの3カ国によるNAFTA(北米自由貿易協定)が発足した。2002年からはブラジル、アルゼンチンとの間で「南米南部共同市場(メルコスール)との経済補完協定」が発効、さらにEU(欧州連合)や日本(2005年4月発効)とも協定を締結したFTA大国となっている。

 ホンダで見ると、メキシコは輸出拠点という位置づけだけでなく、米国工場からは「アキュラ」ブランドを含む9車種を、ブラジル工場からは「フィット」を輸入して国内市場で販売している。FTAにより、あたかも国境のない補完関係が高度化しつつある。

 「北米依存」のリスクを減らせるか
 さらに今後はアルゼンチン、ブラジルの南米2工場の生産増により、米州全体のオペレーションがより一体化されることになる。

 11月に着工したアルゼンチン工場は、年3万台の小型車工場として2009年後半に稼働する予定。また、1997年にホンダでは南米初の4輪車生産を始めたブラジル工場は、2005年から段階的な能力増を図っており、2008年には年10万台に拡大させる。

 いずれも、当初は2輪車の現地生産から出発、ブランドの認知や資金・人材を確保したうえで4輪事業に進出した。「小さく生んで大きく育てる」(福井社長)という、ホンダの海外展開の教科書に沿った事業展開である。

 一方、ホンダにとって最大の市場を抱える米国ではオハイオ(2工場)、アラバマに次いで2008年秋にはインディアナ工場(年20万台)が稼働する。現時点での南米を含む米州全体の4輪車生産能力は150万台だが、アルゼンチン工場が稼働する2009年には175万台と、現状より17%増える。

 筆者は、2009年のホンダの4輪車世界生産は今年より12%多い435万台規模と推計している。米州の生産拡大は、世界での成長を上回るペースとなる。ホンダの「北米依存」はかねて指摘される危うさでもあるが、これからは北米と南米を合わせた「米州依存」に転じると見ることもできる。

 南米やメキシコといった新興市場の成長力が、米国・カナダという成熟市場での需要変動のバッファーとして機能すれば、「北米依存」のリスク軽減につながる。その意味からも米州の「ヘソ」に位置し、北と南を有機的につなぐ役目を担うメキシコ事業は一段と重要になってくる。 (池原 昭雄)

business.nikkeibp.co.jp(2007-12-07)