太陽電池でも「ホンダ流」
 他流試合より、自ら土俵を作る

 ホンダは11月12日、熊本県大津町に建設した太陽電池工場で開所式を行い、自動車メーカーとして初の太陽電池事業を本格的に始動させた。
 「エネルギー分野でも、独自の発想と技術で、個人に喜んでもらえるような商品作りを追求していく」。福井威夫社長はこう宣言し、太陽電池事業でも「ホンダ流」を貫く考えを表明した。

 新工場の年産能力は27.5メガワット(メガは100万)。2006年の世界の太陽電池生産量が約2250メガワットだったことを見ると、ホンダの規模は微々たるもの。しかし、ホンダはこれまでの成功体験で導いた「勝利の方程式」を同事業にも適用していく構えだ。

 方程式は2つの要素で成り立つ。1つは他社にない技術を事業のベースに据えること。もう1つは、まず個人を攻め、ブランドを確立することだ。

 方程式は2つの要素で成り立つ。1つは他社にない技術を事業のベースに据えること。もう1つは、まず個人を攻め、ブランドを確立することだ。

 独自の低コスト技術で差別化
 技術の独創性は際立っている。ホンダは材料に業界主流のシリコンを使わず、銅、インジウム、ガリウム、セレンの金属化合物を採用した。電力変換効率は 11%とシリコン系より劣るが、電池の膜厚は2.4マイクロメートル(マイクロは100万分の1)と従来の80分の1程度。この分、材料使用量を減らすことができ、製造工程でのCO2(二酸化炭素)排出量も半分に抑えられる。

 品薄で価格上昇が著しいシリコンより安定調達でき、生産コストも低減できる。施工費を含む販売価格(3キロワットの標準設備)は業界平均より安めの200 万円弱だ。太陽電池の開発責任者で、子会社ホンダソルテックの鈴木康浩取締役は「薄膜の均一性向上など技術改善に取り組み、変換効率を高めていく」と強調。性能面でも既存製品を捉え、競争力に磨きをかける構えだ。

 もう1つの個人の攻略はどうか。ホンダは需要増が見込める工場向けなどの産業用より、個人住宅に照準を絞っている。しかも、環境意識の高い欧州など海外進出を後回しにし、国内での基盤固めを優先する考えだ。

 国内は世界最大手のシャープや三洋電機など有力企業がひしめく。後発のホンダは技術だけでなく、販売網についても独自性を打ち出す必要がある。  現在の国内販売拠点は80拠点で、来年中に200拠点に拡充していく。工務店なども活用するが、ホンダは発電機や芝刈り機など汎用機を取り扱う系列販売店を積極的に取り込んでいく。

 系列販売店で強み発揮
 太陽電池を統括する汎用事業本部長の土志田諭専務は「汎用機器の系列販売店は地元密着で、既に顧客基盤を築いている。この点はほかの競合企業にない強み」と強調する。販売店の3分の1は系列店とし、乗用車の販売店で取り扱ってもらうことも視野に入れる。末端需要と距離を縮めることで、顧客の声を製品開発に反映させやすくする狙いもある。

 他社に真似できない独自技術を突破口にするのはホンダのDNA。1970年代に開発したCVCCエンジンで、世界で最も厳しい米国の排ガス規制を先駆けてクリアして躍進した。現在、排ガスがガソリン車並みの新型クリーンディーゼルの開発で先行していることも、独自の触媒技術を確立したからだ。

 個人ユーザーへのこだわりも徹底している。福井社長は「当社はトラックやバスはやらない。個人のモビリティーを追求するのが使命だ」と強調する。昨年事業化したビジネスジェット機事業も顧客はあくまで個人ベースだ。ジェット機受注は既に100機を超す。

 後発だからこそ、他流試合で体力をすり減らすのではなく、自ら土俵を作って需要を呼び込む。ホンダのしたたかな戦略が、太陽電池事業でも実を結ぶのか。答えが見えてくるのはそれほど遠い時期ではなさそうだ。

日経ビジネス 2007年11月19日号13ページより