中国自動車市場の憂鬱

 中国の自動車市場は年初から24%の伸びを見せている。メーカー各社はぼろ儲けと思いきや、多くのメーカーは打撃を受けている。今期の目標に販売台数が全く届かず、15%の値引きを強いられ、利益が圧迫されているのだ。

 価格戦争は「自動車メーカーに多大なプレッシャーを与えている」と吉利汽車の幹部ローレンス・アン氏は言う。同社は今期の生産台数を24万台から19万台へ引き下げた。「粗利は高いと言えず、原材料費は急騰している。コスト削減するだけで溝は埋め切れない」。

 中国ブランドだけではない。シティグループのアナリスト、チャールズ・チェン氏によれば、「ビュイック」と「シボレー」を生産する米ゼネラル・モーターズ(GM)の上海事業は今期の生産目標が5%の未達に終わり、「アコード」と「フィット」を生産する広州ホンダは、目標に18%届かない見通しだ。

 ホンダも現代も小型車で苦戦
 仏プジョーシトロエングループの合弁会社は21%、韓国の現代自動車は29%目標を下回るという。「2007年の自動車市場は、中国の組み立てメーカーの多くを落胆させた」。チェン氏は10月5日付のリポートでこう書いている。

 最大の問題は小型車である。1年前、この分野は低所得者層がショールームに押し寄せたことから、最も成長が見込めると考えられていた。しかし結果的には、自動車市場の最下層にはメーカーが期待したほどの顧客が存在しなかった。調査会社米JDパワー・アンド・アソシエイツによると、エンジンの排気量が1リットル以下の超小型車の販売台数は今年1〜8月で7%しか増えなかった。超小型車より多少大きい準コンパクトカーの伸びも4%止まりだ。

 メーカー各社が値下げに動くにつれ、顧客の買い控えが強まっている。「どれくらい価格が下がるか様子を見たい」と話すのは、北京在住のワン・ジン氏(25歳)。彼は「プジョー307」を検討している。今は1万6000ドルで販売されているが、1万4000ドルくらいで手に入れることを狙っているところだ。

 競争も激化している。世界のほぼすべての自動車メーカーが中国に進出し、今では80ものブランドが売られている。シティの推定によると、業界全体の利益率は1年前の15.1%から2007年上半期には8.8%にまで低下した。  「市場は力強い成長を遂げているのに、価格が下がり、利益率が低下している」と、上海に拠点を置くJDパワー中国代表のマイケル・ダン氏は言う。「皆、手に入れられるものを必死で手に入れようとしている」。

 高級車堅調で、トヨタ躍進
 期待外れの小型車市場をよそに、比較的大きいモデルは堅調だ。JDパワーによると、コンパクトカーの販売は46%、中型セダンは35%伸びている。おかげで独フォルクスワーゲン(VW)は今年1〜9月で中国・香港市場での販売台数が30%伸びた。VWのシェアは15%から18%に拡大し、追撃するGM(9.8%)との差を広げている。

 トヨタ自動車も勝ち組だ。高級セダン「クラウン」(4万3000ドル強)と中型セダン「カムリ」(2万6373〜3万5973ドル)、その他の小型車の販売台数は今年1〜8月で40%増加した。トヨタのシェアは約8%で、奇瑞汽車、ホンダと中国でのナンバー3の座を巡って熾烈な争いを繰り広げている。

 「高級車が以前よりずっと安くなった」と自動車専門ウェブサイト「網上車市」のCEO(最高経営責任者)、フア・シュウ氏は言う。「だから消費者はより高級な車を求めるようになっている」。<<日経ビジネス 2007年11月5日号150ページより >>

business.nikkeibp.co.jp(2007-11-01)