岡野雅行氏の講演会

 岡野工業(株)社長岡野雅行氏の講演会に行ってきました。
 岡野氏は”痛くない注射針”で有名な方ですが、社員わずか7名で年間売り上げ7億円の墨田区の町工場です。

 会場で直径1センチぐらいの小さな鈴を頂きました。43年前に作り始めた鈴で特許は切れているが今でも誰も作れないそうです。これでビルが3軒建ったそうです。 普通鈴は3つの部品できていますが、この鈴は1枚の板からできています。よく鈴を見てもどこにも継ぎ目がありません。

 この技術があったから板を丸めて作る外形0.2mm内径0.08mm長さ20mmの、元が太く先になるほど径が細くなる注射針が作れたそうです。この注射針は医療機器メーカーのテルモ(株)の研究者が発明したものですが、日本中作ってくれるところを探して100軒回ったがどこにもなく、仕事で関係あるトヨタに聞いて岡野工業を紹介してもらったそうです。

 一般の注射針はパイプで出来ていますが、パイプだと長さと外径に限界があり、板を曲げてパイプにするという奇抜な発想から実現したもので、岡野氏は「思い込みを外さないとだめ」とおっしゃっていました。

 試作に半年、合わせに1年かかったそうです。テルモはこの注射針のおかげで、業界No2からNo1になり、株価も1,800円が5,200円に上がったそうです。

 特許はテルモと共同出願で、世界に特許出願していて、7,000万円かかったそうです。特許は独り占めするのではなく相手にも儲けさせないとだめだとおっしゃっていましたが、特許費用を考えるとそちらの方が利口ではないでしょうか。

 日産100万本で年間2〜3億本を生産。この注射針は糖尿病患者が毎日3〜4回自分で打つときに使うもので、患者さんにとっては救世主です。

 現在採血用の痛くない注射針を開発中で、板の状態で針の先の部分に多数の穴を開けて、小さな穴から多量の血液を採取できるようにしたそうです。板を丸めて作る製法だからできる技です。

 人が出来ないことをやる。どこもやったことがないものは見積もりができないそうで、出来高払い。失敗したらお金は取らないそうです。

 黒い短髪でおしゃれな姿からは昭和8年生まれには見えず、外見は違いますがどこか本田宗一郎さんとイメージがダブって見えました。

 特許の請求項と図面が面白いので明細書を添付します《ここをクリック》。特許電子図書館の公開テキスト検索で、発明者に岡野雅行と入力すると詳細を見ることができます。
  
 固有技術を持った会社は強いです。親父の代は金型屋だったそうですが、儲かるプレス屋に変身して、たたきあげの職人の技が成した偉業です。量産に関しては、娘婿の生産技術、品質管理がなかったらできなかったとおっしゃっていました。

 講演を聞いて元気をもらいました。久しぶりに機械屋の血が騒ぎました。

《 追記 》
 ☆「テルモ,痛くない先細注射針を岡野工業と共同開発」の記事---ここをクリック。

記:山永 順一(2007-08-31)