「軽」改革で国内テコ入れ
ホンダ、戦略子会社を「完成車メーカー」に

 ホンダが国内事業の戦略見直しに踏み切った。福井威夫社長が18日に記者会見し、北米で展開する高級車ブランド「アキュラ」の国内導入を当初計画の2008年秋から2年程度先送りする方針を表明。一方、軽自動車生産を子会社の八千代工業に集約し、軽事業をテコ入れする計画も打ち出した。

 アキュラの国内導入計画を発表したのは、2005年12月。国内販売を担当する西前学執行役員は「3年前から登録車(普通自動車)販売が年30万台以上も減るなんて、当時は想定していなかった」と振り返る。アキュラを国内販売の起爆剤にするというホンダの期待は、景気回復下でも販売台数が落ち続ける現実を前にしぼんでいった。

 福井社長は「優先順位が高いテーマはほかにもある」と強調する。昨年3月に国内販売網の3系列を1系列に統合し「ホンダカーズ」を立ち上げたが、「統合効果が期待値に届いていない」(福井社長)。足腰が定まらない段階でのアキュラ導入はディーラーの混乱を招き、逆効果と判断したようだ。

 もう1つ、ホンダが抗しきれない現実がある。急速な「軽シフト」だ。  軽自動車は低燃費に加え維持費の安さが受け、2006年の国内販売は初めて200万台を突破した。今年1〜6月の販売台数は各社の新車投入の谷間だったため、前年同期比1.7%減となったが、それでも2005年の同期を上回る勢い。「軽の販売は当面高水準が続く」との見方が大勢を占めている。

 しかし、ホンダはこの波にうまく乗れていない。昨年春に「ゼスト」を投入したが新車効果は息切れし、今年1〜6月累計のシェアは11.4%と前年通期から2.7ポイントも低下している。

 「スズキはあれだけ安いクルマで、どうやって利益を出しているのか」。福井社長は自社の軽自動車がコスト競争力で劣っていることに危機感を抱く。そこでホンダが見いだした解が、八千代への軽自動車事業の集約だ。

 ホンダの軽の大半を受託生産する八千代を昨年12月にTOB(株式公開買い付け)で子会社化し、軽事業を強化する方針を打ち出していたが、その具体策が今回明らかになった。

 まず、八千代の軽の組み立て拠点、四日市製作所(三重県四日市市)の隣接地に新工場を建設。ホンダの熊本製作所(熊本県大津町)の軽のエンジン生産を移管し、2009年から新工場でエンジン組み立てを始める。その後に順次、鋳造、加工も移し、エンジンから車両組み立てまでの一貫生産体制を敷く。熊本のAT(自動変速機)も四日市の近くのホンダの鈴鹿製作所(三重県鈴鹿市)に移管。ホンダの軽生産を一手に担う拠点とし、生産効率を大幅に引き上げる。

 今月19日に会見した八千代の白石基厚社長は、「新工場建設に300億〜400億円をかけ、生産コストを2ケタ(10%)以上削減する」と意気込む。今年6月にホンダから送り込まれた白石社長はホンダの元専務で、本田技術研究所元社長。生産本部長も歴任しており、福井社長も全幅の信頼を寄せる。

 軽改革は生産面にとどまらない。福井社長と白石社長は「開発機能も徐々に八千代に移していく」と明かす。開発ノウハウを学ぶため、近く八千代から中堅技術者が本田技術研究所に派遣される見通しだ。八千代は受託生産会社にすぎなかったが、開発から生産を一貫して担う「完成車メーカー」と位置づけ、「オールホンダ」として経営資源を最適配分する狙いだ。

 だが、軽事業改革の成果が表れるのは2009年以降。延期後のアキュラ導入予定の2010年の時点で、新車市場が好転している保証はない。あるホンダOBはアキュラ導入延期について「ホンダらしく爪先立ちでもいいから前に走ってほしかった」と漏らす。

 もっともホンダは、海外市場は好調で、海外工場の増強を続けるなど、攻めの姿勢は崩していない。ホンダが再構築した国内戦略は「緩んだねじ」を巻き直すための現実路線という見方もできる。

business.nikkeibp.co.jp(2007-07-26)