赤城農水相の事務所費問題 なぜ閣僚は不祥事を起こすのか
<< 田原総一朗 >>

 参議院選挙の直近になって、また「政治とカネ」の問題が出てきた。大臣が4人も極めて不明瞭な会計処理をしていたのだ。おそらく自民党は困惑しきっていることだろう。

 相次ぐ不明瞭な会計処理
 安倍内閣になって佐田玄一郎元行政改革担当相、伊吹文明文科相と「政治とカネ」の問題が次々露呈し、この問題では3人目となる松岡利勝元農水相は追い詰められて、ついに自殺せざるを得なかった。その松岡さんに代わった赤城徳彦農水大臣が、また同じような問題を起こした。

 野党はもちろん、新聞やテレビも「政治とカネ」と騒いでいる。
 赤城徳彦氏の祖父、赤城宗徳氏は、岸信介内閣で防衛庁長官を務めた。60年安保のときは、学生や労働組合が「安保反対、岸は辞めろ」と国会のまわりをデモしたとき、岸首相はデモを排除するために自衛隊を出動させようとした。それに対して、赤城宗徳防衛庁長官は反対し、自衛隊の出動を阻止したことで名をあげた。

 その孫である赤城徳彦氏は、1990年、当時最年少の30歳で国会議員になった。その赤城大臣が、松岡元大臣と似たようなことをやっていることが露呈した。

 赤城氏は、祖父の代からの家で、彼の実家でもある茨城県筑西市の実家を「赤城徳彦後援会」の主たる事務所として、10年間で約9000万円の事務所経費を計上していた。

 自民党の大半の議員に疑惑
 ところがそこに立派な家はあるけれど、そこに住んでいる母親自身が「中選挙区制のときは、事務所のように使ったことはあったが、小選挙区制になってからは全く使っていない。息子徳彦とのお金のやりとりは一切ない」と語り、波紋が広がった。

 要するに通信費、光熱水道費なども自分の家で払っていて、後援会事務所として機能していないというのだ。

 また、後援会の代表者になっている元茨城県議が「徳彦氏の代になってからは、この事務所になっている実家は一切使っていない。自分が代表者になっていることも知らなかった」と述べている。

 後日、それぞれ「今でも地元の活動拠点」「祖父の代から代表」と発言を翻しているが、どうみてもこれは架空の事務所だとしか思えない。

 赤城氏は会見で「水戸にも事務所があり、経常経費はそことの総計である」と言っていたが、水戸の事務所のほうは別会計になっていたこともわかっている。

 自民党で次々と問題を起こしている大臣らは、たまたま大臣になったのでこの不明瞭な処理がバレたけれど、おそらく自民党の大半の議員が、これと同じことをやっているとしか思えない。

 事務所費は、唯一領収書がいらない。他は全部5万円以上の出費について、領収書が必要だ。

 僕は何人かの自民党の議員たちに、どうなっているのかを聞いた。彼らはみな「事務所費は実に便利に使えて、どの議員もいってみれば財布代わりにしていた」と口をそろえた。

 領収書のいらないカネを何に使っているのか
 領収書のいらない便利なところで、疑わしいカネの使い方をしている。いったいこれは何に使ったのだろう。

 自民党の議員に確かめると、私腹している者はいないようで、ほとんどが選挙区からやってくる後援者や有権者の飯代、あるいは地元で後援会に集まってもらったときに出す飯代に使っているという。仮に1人3000円としても、10人では3万円、100人なら30万、すぐに50万円近くかかってしまう。

 「政治とカネ」と新聞やテレビで言っているけれど、政治家の金の集め方も、金の使い方も無理に無理が重なっている。ここから改めて見ていかないと、今後とも同じような問題が年中起きることになる。

 では、どこが問題なのか。

 改めて考えると、ひとつは自民党という党のあり方の問題である。こういった金の問題は、民主党にはややあると思うが、社民党や、共産党、公明党にはないと思う。

 自民党の票集めの歴史
 もともと自民党がどうやって選挙に勝っていたか、どうやって政権を握ってきたかというと、自民党の歴史が始まって以来、有権者の面倒をみることで、票を獲得してきた。

 有権者の面倒をみるということは、大きな話では「今度当選したらあの道路を作ります、あの橋を作ります、あのダムを作ります」という約束から始まって、細かな話で言えば、「有権者が交通違反をしたら、警察に行ってもらい下げをしてあげる。後援者が病気になって入院したいが病院は満床だといわれたら、そこをなんとかして入れてあげる」という口利きにまで及んでいる。

 もっと露骨な話も直接聞いたことがある。ある選挙区でもともと金権政治といわれた男が選挙に負けたとき、「田原さん、俺はおにぎりに1万円しか入れなかった。相手は2万入れたからそれで負けたんだ」と嘆いたのだ。

 つまり自民党は“施し”で、議席を獲得してきた。だから、後援会や有権者に集まってもらったら、弁当や酒を出すのが今も当たり前である。しかし、それをすると選挙違反になってしまう。地方からわざわざ後援者が来たら、食事代も出すだろう。それが選挙違反になるから、事務所費を便利な財布代わりに使っていたのだ。

 今までは成長経済の時代だったから歳入が多く、企業からの献金も大変多かった。また法律もルーズだったから、政治家が自由になる金も多かった。歳入が多いから、道路や橋やダムが作れたし、政治家自身もお金を持っていたから、後援者にご馳走もできた。

 今から20数年前は、自民党の政治家は有権者を観光バスに乗せて温泉へ連れていった。おそらく多少は行った人がお金を出すことになっていたのだろうが、ほとんどは政治家が出していた。そういうことが公然と行われていたのだ。

 個人献金に関する日米の違い
 今「政治とカネ」といわれているが、20年、30年前に比べたら、ケタがまったく違う。

 田中角栄は、1回の選挙で50億円も60億円も集めた。それは極端な例だが、それでも竹下登は「他の派閥の領袖は選挙のときに20億円しか集められなかったが、私は30億円集められたから強いんだよなあ」と語っていた。

 今は5億円集められる領袖はいない。額が大変少なくなったにも関わらず、かつての“自民党文化”というか、流儀がまだ残っている。

 だが、そういう政治がいよいよ終局になって、本当はもうできない。できなくなったのを無理にしようとしたことが、このような問題となって出てきた。

 野党の方は、もともと有権者が野党に何かしてもらおうと思って投票していない。野党には自民党の監査役やブレーキ役、あるいは自民党のごまかしや悪の部分を暴く役割として一票を投じている。だから野党の議員は、有権者の世話をする必要がなかった。この違いが出ている。

 数年前、僕はアメリカのワシントンで日米のジャーナリストを招いてシンポジウムを開き、司会を務めたことがある。その場で、アメリカのジャーナリストに「この中で政治家に献金をしているジャーナリストはいるか?」と聞いたら、全員が手を挙げた。

 日本人では、政治家に献金しているジャーナリストは、僕を含めて1人もいなかった。

 アメリカでは、応援する政治家に個人献金するのは当然で、隠す必要がない。たくさん金を集められるの人がむしろヒーローで、だから今、民主党のヒラリー・クリントン上院議員とオバマ上院議員のどちらが多く集められるか、勝負になっている。

 企業献金に頼る汚職の構図
 日本では金を集められるのは悪いことで、隠さないといけない。有権者のほうも金は出さず、むしろ自民党から世話をしてもらうのが当然だと思っている。そこで自民党は、個人献金が集まらないから、やむなく企業からの献金に頼っている。

 ところが、企業の社長がお返しもないのにお金を出したら背任横領だ。だから必ずお返しを求める。このお返しというのが、公共事業の仕事をもらうということだったりするため、利権の構造となり汚職となる。だから自民党はずっと汚職の構造できた。

 だが最近は、汚職の構造も成り立たなくなってきた。なぜなら歳入が減り、公共事業が減ってきたからだ。今度の参議院選挙で、自民党が非常に苦しいといわれているのはそこなのだ。

 自民党は今まで、利益の配当でしか地域とのつながりがなかった。それができなくなったことで、地域とのつながりがどんどん希薄になってきている。

 自民党の支持が落ちてきたのは、新聞などでは年金の問題とかいろいろ言っているが、根本はこういった地域との関係の希薄化にあると思う。これからの自民党は、利益の配当をする体質から脱皮しないと、政界運営はできない。

 自民党の賞味期限はとっくに切れている
 実は自民党の“賞味期限”はとっくに切れている。小泉さんという反自民の特異な首相が出てきて、賞味期限切れなのになんとなく国民をごまかして、期限を延長してきたにすぎない。

 国民は、小泉氏が「改革、改革」というので、賞味期限切れの食べもののにおいをかいでいる暇がなかったのだ。

 今その賞味期限が延びた分を国民が一挙に認識し、もう自民党は嫌だという気持ちを強く持っているのではないか。

 多くの国民が「もう自民党は嫌だ。投票したくない」と思っているのだが、問題は「では民主党に入れよう」と決意をするかどうかだ。どうも民主党に、その迫力や魅力が今ひとつ乏しい気がする。

 今は“敵失”ばかりで点数を稼いでいるが、やはり自分で打たなければおもしろくない。さあ、これから打てるかどうか。まさに民主党にとっても正念場となる。

nikkeibp.co.jp(2007-07-12)