次世代車バトル・2010年に生き残る車

 4月21日に栃木県にあるツインリンクもてぎサーキットで開催されたインディ・レースでは、トウモロコシが原料のバイオエタノールが使われました。

 それに先立つ06年の6月にフランスで開催されたル・マン24時間耐久レースでは、アウディが出場させたディーゼル・レースカーがル・マン史上初めてディーゼル車として優勝しました。今年はプジョーもディーゼルで挑戦するということです。

 一方、F1では09年からエネルギー回生装置の装着が許されます。これは実質的なハイブリッド解禁といえるでしょう。いよいよF1もハイブリッド時代を迎えます。

 これら一連のモータースポーツの動きは、モータースポーツ用車両の次世代車化ともいえます。モータースポーツが環境・エネルギー対応を始めたということでしょう。

 モータースポーツは、市販車の動きと連動するところがあります。モータースポーツが興隆していれば、市販車状況も活発で、自動車は良く売れ、道路等のインフラの整備も進みます。現在では中国がそうです。

 一方、日本ではその反対にモータースポーツが大変に低調で、市販車の売れ行きも悪く、モータリゼーションの盛り上がりも少ない状況です。若い人たちの自動車への興味が低下しています。

 このように、モータースポーツは、市販車マーケットの鏡ともいえるのです。

 そのモータースポーツで、変革が起こりつつあります。上記のように米国のインデイでは燃料に、ル・マンではエンジンの形式に、F1ではエネルギー回生に、それぞれ改革が起こりつつあります。これは、次世代車の開発をめぐる代理戦争ともいえるのではないでしょうか。

 では、具体的に次世代車に求められていることは何でしょうか。これはいうまでもなく、排ガスがクリーンで、CO2排出量が少なく、燃費が良いかあるいは石油に替わるエネルギーで走れることです。また、直近の次世代車と、将来的な次世代車で、内容が変わります。

 直近の次世代車には、とにかくクリーンであることと、燃費が良いことが求められます。ただし、クリーンであることは、米国では08年から、日本では09年から始まる非常に厳しい排ガス規制で達成される予定ですから、直近の場合は燃費が良いことが条件と考えてよいでしょう。これは石油を節約しつつCO2排出量を削減するのが近々の課題だからです。

 将来的には、石油に替わるエネルギーで走れることが最大の条件となります。だからといって、天然ガスや液化石炭ではCO2排出量削減に課題が残ります。一方、電気エネルギーで走る自動車は、クリーン度でも、石油代替性でも、CO2排出量でも、大いに期待できます。ということから、究極の次世代車として燃料電池車とEV=電気自動車が期待されるわけです。

 直近の次世代車としては、ハイブリッド車、ディーゼルエンジン車、天然ガス自動車、バイオ燃料車が期待されています。ただし、天然ガス自動車は、天然ガスの供給インフラを整備する必要があることと、航続距離を長くする必要があります。また燃費ももう少し向上させる必要があるでしょう。トラックではすでに実用化されてまいすが、大きく重いボンベを積む必要があるので天然ガス乗用車はなかなか成り立ちにくいものがあります。

 また、最近話題のバイオ燃料ですが、100%バイオの自動車は、バイオ燃料の供給量に制限があるために、ブラジルなど一部の国に限られます。したがって、ガソリンあるいは軽油に混合するという使われ方になります。たとえば、ガソリンエンジン車に使われるバイオエタノールの場合、どの自動車にも使えるようにするには3%程度の混合量が推奨されています。非常に近い将来、供給量が間に合う限りにおいて、あらゆるガソリン車はバイオエタノール混合ガソリンで走るようになるでしょう。

 したがって、実質的にはハイブリッド車とディーゼルエンジン車の戦いということになります。ちなみに、バイオ・エタノール燃料ハイブリッド車も、バイオ・ディーゼル車もあり得るわけです。

 ハイブリッド車は、機構が複雑で、重く、コストが高いという課題を抱えています。一方、ディーゼルエンジン車は、強まる排ガス規制をクリアーできるかどうか、たとえクリアーできてもコストが非常に高くなる、市街地の燃費では圧倒的にハイブリッド車にリードされているといった課題を抱えています。

 もちろん、ディーゼル・ハイブリッド車も考えられないわけではありませんが、上記の課題を二重に抱えることになり、現在のところ、トラック、バスにしても、もちろん乗用車ではコスト的に成り立ちにくい状況です。

 ただし、ハイブリッド車は電気動力でも走れるがゆえに、大きな可能性をもっているという話と、燃料電池車VS電気自動車の話は、またの機会にしましょう。《舘内端(たてうち・ただし):自動車評論家。》

nikkei.co.jp(2007-07-06)