アコード、ハイブリッド車廃止へ
ホンダ、ディーゼル車とのすみ分け明確化

 ホンダが「アコード」のハイブリッド仕様車の生産中止を検討していることが日経ビジネスの取材で明らかになった。今後はハイブリッドシステムの搭載を小型車に集中する戦略で、中型以上の車種には開発中の新型クリーンディーゼルエンジンを搭載していく。ハイブリッドとディーゼルの技術特性に応じて環境対応車のすみ分けを明確にし、ハイブリッド技術を中核に据えるトヨタ自動車との違いを鮮明にする。

 
 ホンダのハイブリッド車は「シビック」とアコードの2車種で、アコードハイブリッドは北米のみで販売してきた。今秋のアコードの全面改良時に、ハイブリッド仕様車を品揃えから外す。1999年11月に発売した2人乗りのハイブリッド専用車「インサイト」は昨年夏に既に生産を中止しており、ホンダのハイブリッド車は当面シビックのみになる。

 システムの特性を見極め
 アコードはホンダの世界戦略車。ハイブリッド仕様車は2004年12月の発売以降、今年3月までの累計で約2万6000台を販売した。年間2万台だった当初の販売目標には届いていないが、なぜ、3年足らずで方針を転換してしまうのか。

 「アコードではハイブリッドのメリットを十分に生かせない」。ホンダの福井威夫社長は常々こう発言していた。理由はホンダのシステムの特性にある。トヨタのシステムはモーターを主動力源にするため、モーターを2基搭載し、2次電池の容量も大きい。これに対し、ホンダはエンジンが主動力源でモーターを補助的に使う。モーターが1基で済む簡易な構造だ。ガソリン車との価格差を縮めやすい利点はあるが、排気量の大きい中型車以上の場合、モーター駆動による燃費削減効果を十分に引き出せない。

 さらにホンダには「ハイブリッドが環境技術で最も優れているという考えは間違っている」(福井社長)との認識がある。ガソリンエンジンとモーターを併用するハイブリッド車はブレーキ時に発生するエネルギーを電気に変えて蓄電し、モーターを動かす。ブレーキをあまりかけない高速の長距離走行では基本的にガソリン車と同様で、CO2(二酸化炭素)削減や燃料消費の低減には寄与しない。

 一方、ディーゼル車は内燃機関自体の熱効率が良く、燃費やCO2排出量がガソリン車と比べて2〜3割改善する。ホンダは課題となっていた排ガスをガソリン車並みにきれいにするディーゼル技術を開発。2009年をめどに北米に搭載車を投入し、クリーンディーゼルを環境対応車の大きな柱にする方針を打ち出している。

 今後、アコードが新型ディーゼル搭載の有力車種になる見通し。既に欧州では現行のディーゼルエンジンをアコードに搭載して、販売を伸ばしている。アコード以外でもSUV(多目的スポーツ車)「CR-V」やミニバンの「オデッセイ」に新型ディーゼルを搭載することを検討している。

 路線違うトヨタと主導権争い  
 ホンダは小型のハイブリッド専用車も開発中で、2009年に全世界で販売する。ガソリン車との価格差を一気に縮め、年間20万台の販売を目指す。まず小型ハイブリッド専用車で足場を固め、その後は「フィット」など他の小型車にもハイブリッドシステムの対象を広げていく見通しだ。

 これに対し、トヨタはハイブリッド技術を環境対応車の主軸と位置づけている。「プリウス」をヒットさせた後、ハイブリッド車の車種数を増やし、今は独り勝ちの状態。今後も品揃えを広げていき、2010年代の早い時期にハイブリッド車の販売台数を年100万台(2006年は約31万2000台)に引き上げる計画だ。

 トヨタはクリーンディーゼルも開発しているが「ハイブリッド技術はすべての動力装置に応用できる」(トヨタの渡辺捷昭社長)という構えだ。だが、ディーゼルとハイブリッドを組み合わせる「ディーゼルハイブリッド」や、電気自動車にハイブリッド技術を融合させた「プラグイン・ハイブリッド」は、システムの規模が大きくなりすぎるため、短期的には現実味が欠ける。

 トヨタは、早くも「小型はハイブリッド、中型以上はディーゼル」と割り切った路線で攻めてくるホンダをどう迎え撃つのか。環境技術をリードする2社の勝負は、世界の自動車業界の技術動向を大きく左右することになるだろう。(鷺森 弘)

business.nikkeibp.co.jp(2007-05-31)