低迷サッカーくじ 「ビッグ」に救世主の期待

  
 1等が最高6億円に達するサッカーくじ(通称トト)の「ビッグ」が爆発的な人気だ。最終的に6本の6億円が出る可能性が生まれた今回は、1週間で61億円を売った。昨年度のくじ全体の売り上げの半分近くに相当する金額だ。注文が殺到してシステム障害が相次いだものの、運営する日本スポーツ振興センターはじり貧だったくじの「救世主」になりそうと期待する。1等当せん金5億6313万2913円が7口も出た。

 1週間で半年分販売
 先週分の販売最終日となった19日の午前11時すぎ、東京のJR有楽町駅近くの売り場に約200人が列をつくった。待ち時間は1時間以上。東京都江戸川区の主婦(61)は、1口300円の「ビッグ」を6000円分購入した。「買ったのは今回が初めて」。隣の宝くじ売り場は、人がまばらだ。売り場の男性は「トトに列ができたなんて、この週が初めて」。

 「ビッグ」は基本的に、売り上げの4割が1等賞金に充てられる。1等が出ないと当選金は繰り越され、どんどん増えていく仕組みだ。昨年11月末以来1等は出ておらず、人気に火がついていった。

 3月31日から4月7日にかけての売り上げは1億7000万円だったが、繰越金が10億円を超えるなどで2本の「6億円」の可能性が出てきた5月12日までの1週間は10億円売れた。

 先週分への繰越金は14億9000万円。注目は一段と高まり、18日には1日としては過去最高の23億円を売った。サッカーくじの昨年度の売り上げが134億円だから、約6分の1を1日で売った計算だ。

 ところが、夢を求めて殺到する客に販売システムが悲鳴をあげた。12日に一部がダウン。14日朝復旧したが、夕方にはまた不安定な状態に陥った。15日の販売は全面休止。特約店などは16日に再開したものの、コンビニエンスストアでの再開はめどが立っていない。

 日本スポーツ振興センターは01年のくじ発売当初、年間2千億円の売り上げを見込んで対応するシステムを作った。しかし売れないことからコスト削減に取り組み、現在は年間600億円に対応するシステムへスリム化した。それが裏目に出た。

 センターは「瞬間的に予想を超えるアクセスが集中した」。2度のシステム障害を起こして「コンビニでの再開は慎重にならざるを得ない」と話す。

 日本中央競馬会(JRA)は昨年の有馬記念で、実質3日足らずで440億円を売り上げた。パソコンや携帯電話などからの投票は600万件にのぼったが、不具合などは起きていない。

 JRAは「まだ1.5倍ほどの負荷に耐える余裕がある。絶対に停止してはならないので、一つのシステムに障害が出てもほかでカバーできるようにリスクを分散している」と、危機管理への徹底ぶりを示した。

 「予想いらず」ファン拡大
 くじの売り上げは始まった01年度が最高で、以降は減少が続く。助成金は07年度には8000万円となった。日本体育協会への助成は今年度ゼロだ。

 センターではこれまで、新商品をいくつも出してきた。市場調査でくじが敬遠される理由のトップだった「当たる確率が低い」を解消するために、対象試合を13試合から5試合に減らした「ミニトト」などを売り出した。しかし、どれも効果は薄かった。

 「ビッグ」は昨年9月に投入された。週ごとに指定されたJリーグ14試合の「勝ち」「負け」「引き分け」をコンピューターがランダムに予想したものを買い、法令で1等は最高6億円となっている。買い手は結果を何も予想しない。「試合の推理を楽しみ、同時にスポーツ振興の資金を拠出する」という導入時の理念を変えたといえる。1等が当たる確率は480万分の1とされる。発売中のドリームジャンボ宝くじの1等(2億円)当選確率は1000万分の1だ。

 「ビッグ」の人気について、公営ギャンブルに詳しい文教大の山田紘祥教授(レジャー産業論)は「トトの宝くじ化が当たった」という。

 「ビッグはJリーグのことを知らなくても、コンピューターが予想してくれるから誰でもアプローチしやすい。宝くじと同じ感覚で老若男女に門戸を開いた。国内のくじで史上最高の6億円という賞金で射幸心を刺激した効果が出た」と分析する。

 今回は、メディアによる「アナウンス効果」も見逃せない。2度の販売システムのダウンがテレビのワイドショーなどで大々的に報道されたことで、逆に認知度が急速に広まり、一大ブームにつながった。

 スポーツ界は助成金期待
 これまでの売り上げ不振で、センターは銀行団から190億円の借金を抱えている。返済開始の今年度は売り上げ目標を221億円とし、黒字転換を図っていた。そこへ「ビッグ特需」が到来した。

 今年度は少なくともあと24回、「ビッグ」の販売が予定されている。今後についてセンターは「現在の売り上げが通常の状態とは考えられない」と慎重な姿勢を示す。それでも「今季中ということではないが、01年の600億円余りの売り上げ規模は今後、十分視野に入る」と、将来へ期待を寄せる。

 売り上げが増えれば、スポーツ界への助成金の大幅増も見込めることになる。日体協の岡崎助一専務理事は「スポーツ界全体にとって歓迎すべきこと。日体協に対する助成の枠が復活すれば、要望したい」。こちらも期待を膨らませている。

 一方で、くじが射幸心を刺激するように姿を変えつつあることに「スポーツ振興はギャンブル資金でなく、国がきちんと予算を組んで取り組むべきだ」(スポーツジャーナリスト・谷口源太郎さん)との声もある。

asahi.com(2007-05-20)