日本車の一人勝ちを憂う

 トヨタ自動車が先週、米国で8番目の工場をミシシッピ州に建設することを発表しました。対照的にDaimlerChrysler社は、Chrysler部門の売却が取りざたされており、その買い手として、中国の自動車メーカーも浮上してきています。また、これも先週の話題ですが、自動車業界専門の調査会社である米CSM Worldwide社が日本のクライアント向けに開催したブリーフィングでは、2013年に世界で生産される自動車のうち、実に37%が日本で設計されたプラットフォームをベースとするようになるとの予測が披露されました。ちなみに同じ時期の米国で設計されたプラットフォームベースのクルマは9%に過ぎず、欧州ベースでも34%にとどまるということですから、日本車の増殖ぶりが分かります。

 米国の大手自動車メーカー3社がそのまま世界の自動車メーカーのトップ3を占めていた時代には「ビッグ3」という呼び方が輝きを放っていました。最近ではこのビッグ3という言葉に代わり「エイジアン4」という言葉をさまざまなアナリストの口から聞くようになってきました。エイジアン4とは、トヨタ自動車、Renault/日産、ホンダ、そして韓国Hyundai Motor社を指すのですが、近い将来に、このエイジアン4が世界の自動車メーカーのトップ4を占めるようになる時代も、現実味を帯びてきました。

 日本人として、日本車の快進撃を喜びたい半面、そのあまりの強さに、少し戸惑いを覚え始めています。米国ではもちろんのこと、地元メーカーが強かった欧州でさえ、最近では日本メーカーが徐々に地元メーカーの地盤を切り崩し始めています。もしも世界のクルマが日本車ばかりになってしまったら、それは喜ぶべきことなのでしょうか。

 昔に比べれば薄れたとはいえ、今でもクルマはそれぞれの出身国の個性を持っています。ドイツ車ならではのいかにも理詰めで頑丈な感じや、フランス社のセンスとエスプリ、イタリア社のデザイン、米国車のおおらかさなどは、まさしくお国柄と言えるでしょう。しかし、そうした個性的なクルマたちがいなくなってしまったとしたら、世界のクルマの風景はずいぶんと、つまらないものになってしまうでしょう。

 半導体でも、デジタル家電でも、携帯電話機でも、あるいは鉄鋼のような素材産業でも、世界の製造業はどんどん寡占化が進んできています。しかし願わくば、自動車の世界はそうなってほしくありません。今このブログは、3月6日から開催されるモーターショーに参加するためにジュネーブのホテルで書いているのですが、世界の自動車産業が、どんな方向に向かっているのか、この目で確かめてみたいと思います。 <<鶴原 吉郎=日経Automotive Technology>>

techon.nikkeibp.co.jp(2007-03-06)