「中国にこそ最も厳しい環境規制を」ホンダ兵後専務

 2006年11月17日、日経ビジネスは北京モーターショーの開催に合わせて北京市内のホテルで、中国の自動車業界紙最大手の中国汽車報と共催で「2006北京国際自動車会議」を開催した。2004年に引き続いて2回目の開催となった今回は、日中双方の自動車メーカートップ3社がスピーカーとして顔を揃えるなど、錚々たるメンバーが熱い議論を展開した。

 中国からは大手国有企業3社の第一汽車の竺延風総経理、東風汽車の周文傑副総経理、上海汽車の胡茂元総裁をはじめ、北京汽車の徐和誼董事長、長安汽車の徐留平総裁、華晨汽車の祁玉民董事長や、独立系メーカーとして躍進する吉利汽車の李書福董事長ら経営トップが参加した。日本側からはトヨタ自動車の稲葉良女副社長、ホンダの兵後篤芳専務、東風汽車有限公司(東風日産)の中村克己総裁と、大手3社の中国事業部門の総責任者がスピーカーとして参加した。

 今週から随時、スピーカーの講演録をお届けする。第1弾は、ホンダの兵後専務に対談形式で中国自動車産業が取り組むべき課題について「中国自動車産業−持続可能な発展を求めて−」と題して語ってもらったセッション。

 北米ホンダの副社長から中国事業部長として北京に赴任して丸4年。自動車市場の急拡大に伴い、大気汚染の深刻化を日々痛感するという兵後氏がこの日、最も強調したのが、「中国こそ世界で最も厳しい環境規制、排ガス規制を導入すべき」との主張だ。

 そのポイントは2つある。1つは、中国の自動車産業も、不可能に近いと思えるほどあえてハードルを高く上げてこそ、競争力がつくという見方である。

 ホンダは4輪メーカーとしては後発だったが、低公害エンジン「CVCC」を1972年に開発、当時自動車の排ガス基準としては最も厳しく、対応不可能と言われた米マスキー法の規制値を世界で初めてクリアした。これにより世界的メーカーへの足がかりをつかんだ。「ハードルを成長への障害と見るか、飛躍へのチャンスととらえるかで今後の成長が決まる」と兵後氏は説明した。

 もう1つのポイントは、中国は今や世界2位という巨大市場に成長した以上、「新興国」「途上国」ではなく、責任ある世界の主たるプレーヤーであるとの自覚を持つべきとの指摘だ。今のスピードが続けば、北米市場をも超える市場規模になる可能性が高い。今この時期に中国が「世界で最も厳しい排ガス規制」を導入すればそれがグローバル市場におけるデファクトスタンダードになるはずだと見る。

 対談では具体的に触れなかったものの、この発言の背景には、中国が世界で最も厳しい基準をデファクトスタンダードとして確立させることはグローバルな自動車産業にとっても大きなプラスになるとの同氏の判断がある。現在、排ガス規制は「ユーロ4」「ユーロ5」といった欧州の規制と米国の「Bin 9」「Bin 5」といった規制が併存する。メーカー各社は販売する地域の規制に合わせてそれぞれクルマを開発し、販売許可の申請を行わなければならない。

 しかし、巨大な市場を抱える中国が世界で最も厳しい規制を導入すれば、世界の自動車メーカーは各社とも当然、対応するわけで、それは世界で共通の排ガス規制を共有することにもつながり、ひいては自動車業界全体にとっても大幅なコスト削減という果実をもたらすことになる。

 このことは、中国自動車産業の持続的発展だけでなく、CO2(二酸化炭素)排出削減が待ったなしの課題となっている世界の自動車業界にとっても極めて意義深い取り組みのはず、との考えが兵後氏にはある。

 この日、ホンダの創業者、本田宗一郎氏の生誕100周年に当たるという同社は最後に、本田宗一郎氏の他社に追随するのではなく、自分で考え、自ら新たなアイデアを生み出していくことこそ真の発展をもたらすと語った映像を流した。各社が切磋琢磨しながら新たな、技術革新を進めていくことが自動車業界全体の発展、持続的発展につながるというわけだ . <<「2006北京国際自動車会議」報告 石黒 千賀子>>

business.nikkeibp.co.jp(2006-12-06)