早実・斎藤投手を助けた“ベッカムカプセル”

 甲子園に来て948球目、2日連続の決勝で296球目となった早稲田実・斎藤のストレートが駒大苫小牧の最後の打者、田中に向かっていった。壮絶な決勝を投げ合ったライバルのバットは、144キロの速球に空を切る。恐るべき球威を斎藤は最後まで保ち続け、2試合で5時間33分に及ぶ戦いに決着をつけた。

 4日連投となるこの日の朝、斎藤は意外にも疲れを感じていなかった。その秘密が明かされたのは、試合前の練習の場だった。

 延長15回の死闘を演じて宿舎に帰った前夜、早稲田実の選手は交代で、「高気圧カプセル」の中に入っていた。カプセルは1人が横になって入れる程度の大きさ。酸素供給度の高いカプセルの中に1時間前後いることで酸素を多く体内に取り入れ、疲労を回復する。サッカーのイングランド前代表、ベッカムが使って話題を呼んだ、通称「ベッカムカプセル」だ。

 「センバツの時は使っていなかったが、今回は体の回復度合いが違う」と斎藤。37年前、松山商と三沢の決勝が引き分け再試合になった時代には考えられない科学の力を借りて、早稲田実の選手は2日連続の決勝に臨んでいた。

 八回の打席を終えてベンチに戻った斎藤は、携帯用の酸素を一口吸って冷静さを取り戻し、最終回のマウンドへ向かった。駒大苫小牧の3番・中沢竜也(3年)に中越えの2ランを浴びて1点差に迫られたが、こん身の投球で続く3人を退けた。

 今春のセンバツでは関西(岡山)との引き分け再試合を含む3日連投を経験したものの、力尽きた。身長176センチ、体重70キロ。投手として恵まれた体格とはいえない。しかし、夏に向けてフォームの改造に取り組んだ。その結果、春は140キロ前後だった速球は、九回、前日の十五回に続き147キロをマークした。

 斎藤は青いハンドタオルで、夏の甲子園では初めての涙をぬぐった。「第1回からこの大会に出ている早実が成し遂げられなかった優勝を果たせた。その重みを感じる」。斎藤はいつもこのタオルを使う。ゲンかつぎのためだが、袖で汗を拭いていると汗が指先まで流れて滑ることもある。そんなことまで考えて早稲田実の選手は野球をしていたのだ。【滝口隆司】

毎日新聞(2006-08-21)