堕ちたフォードとGMのブランド価値
 米フォード・モーターと米ゼネラル・モーターズ(GM)の米国自動車販売台数の凋落に歯止めがかからない。今年5月末時点でのマーケットシェアは、フォードは前年比較で0.6ポイント減少し、18.3%、一方、GMは1.9ポイント低下し23.5%まで減少した。5年前のマーケットシェアはフォードが24.5%、GMが29.1%であったことを考えると驚くに値する。

 最大の要因は、魅力ある商品を提供してこなかったこと、言い換えれば、消費者のトレンドシフトを充分に読み切れなかったことに尽きる。フレーム構造のSUV(スポーツ・ユーティリティー・ビークル)から、乗用車・ミニバン・SUVの3つの機能を兼ね備えたCUV(クロスオーバー・ユーティリティー・ビークル)へとユーザーの嗜好が変化していくさまを、拱手傍観している間に、日系及び韓国の自動車メーカーにシェアを奪われている。

 急落するビッグ3の下取り価格
 マーケットシェアの縮小に加え、ビッグ3のブランド価値の下落が叫ばれている。特に、フォードとGMグループのブランド価値が昨今、著しく低下している。右の表をご覧いただきたい。調査会社米ALGが提供する米国市場における新車購入から3年後の残存価値のランキングだ。驚くべきことにトップ10に米国ビッグ3は含まれない。一方、ワースト10の内、5つのブランドがフォードとGMグループだ。

 フォードの「リンカーン」「マーキュリー」、GMの「シボレー」「ポンティアック」「ビュイック」などのブランドは新車購入3年後の残存価値が新車価格の30%台まで落ち込む。つまり購入してから3年後にクルマを買い換えようと思ったら、新車で買った時の3割以下の下取り価格を覚悟しなければならないということだ。

 これに対し、BMWの「ミニ」は新車購入後3年を経ても、その残存価値は60%を下回らない。ミニは2002年に米国で発売開始されて以降、安定的に年間4万台ペースで販売されており、陳腐さを感じさせない存在感がある。このようにブランド価値を高めるためには差別化が必要である。つまり、お金を上積みしてでも買いたいと思う魅力ある商品を生み出すことが重要なのである。これが、ミニやBMWのブランド戦略であり、フォードとGMに不足しているものである。

 ミニ以外でも、その他の欧州ブランドや日系ブランドの残存価格は高く、中古車市場で値崩れしない。従って、インセンティブ(販売奨励金)が少なくても、クルマが売れる。ビッグ3の中でもクライスラーは今のところ成功している。「クライスラー300C」といった値引きが少なくても買いたいと思う車を販売してきたからだ。「プレミアム」とか「パッション」といった言葉が当てはまるような“購買心理”を衝き動かす魅力あるクルマの開発が今、フォードとGMにとって急務なのだ。

 インセンティブ競争の再燃
 もちろん、ブランド力は商品だけでは決まらない。ディーラーの販売力によるところも大きい。そういった販売面でもフォードやGMはトヨタ自動車などに比べれば見劣りする。商品力や販売力だけで販売数量を高められないフォードやGMは、多額のインセンティブをディーラーと購入者に提供せざるを得ない。インセンティブや大幅なディスカウントは、販売数量の拡大に寄与するが、一方で、ブランド価値を低下させる。ブランド価値が下がれば中古車価格が下がる、中古車価格が下がれば新車が売れない、新車が売れなければ販売価格を下げる…、という悪循環に陥っているのが実態だ。

 ディーラーに山積している2005年と2006年モデルの新車をさばくために、先月GMは最大6年間無利息というインセンティブ供与を開始した。クライスラーも社員割引価格を一般購入者にも適用するというインセンティブを復活させた。一時落ち着いていたインセンティブ競争の再燃だ。一体、ビッグ3はどこへ向かうのだろうか…。

nikkeibp.co.jp(2006-06-29)