NHK技研公開 2006

 5月26日に 世田谷区砧にあるNHKの放送技術研究所の研究成果の一般公開が行なわれていると言うので、行ってきました。
これは毎年やっているらしいのですが小生は初めてです。

 やり方はHGやEGがやっている「バーゲン」とほぼ同じシステムです。違いはホンダの場合「身内に公開」ですが、NHKの場合「一般に公開」です。
公開の仕方も「バーゲン」と似ていて、研究成果の「物」を展示し、研究の目的、完成時の効果 等の説明のビラがあり 開発者(PL)が説明をすると言うスタイルでした。

 研究所の職員が案内するツアーがあるというので、これに参加しました。 見終わった全体の感想としては「イロイロ頑張ってやっているな」と思う反面、 「デジタル化だハイビジョンだとはしゃぎすぎているのでは・・?」と言う感覚もありました。 数年後には地上波も全てデジタル化し、視聴者に「受信装置の全取替え」を強要するのはいかがなものか? との思いもあります。気になったものを数点紹介します。


 上の図は将来のTV受信システムを描いたもので、メインとなるのはリビングに置かれた「サーバー型の受信機」でこれはオンエアーされている番組の録画はもちろんのこと、放送局に蓄積されている番組(過去1週間分は蓄積する予定とか)をもダウンロードすることが出来るという。
 また、サーバー型受信機に録画されているものであれば家のどこからでも見ることが出来、 このとき必要があれば、同じ場面を繰り返し見るとか、外国語の勉強などで、早口で解りにくい時には、音質を変えずに「ユックリした話し方」に変換することも出来ると言う。
 「放送を出発点としながらネットワーク技術を活用して、ブロードバンドネットワークの利便性も取り込み、より便利で豊かな情報社会を実現する」とありました。

〇携帯電話の「ワンセグ端末」の進化のさせ方
 ワンセグを使って携帯電話でTVが見られるのは、もう始まっています。
  • しかし携帯の画面は小さいので、サッカーなどは 画面に「ピッチ全体」写したのでは何をやっているかわからないので、動いているボールを自動認識させ、ボールの近く数メートルを切り取って画像を送るようなシステムも出来ているという。
    しかし、TVを長い間見ていたら電池がすぐにダメになる、そこで省電力化の研究もある。
    また最近の新聞では、docomoが燃料電池の採用を検討していると言う。
  • 緊急時にワンセグ端末を自動起動させる。緊急時の自動起動は今のTVでも可能で、使用している方もあるかも知れない。しかし携帯なので「微小待機電力で緊急放送をキャッチできる回路の開発」開発したと言う。今の待ちうけ画面をそのまま使うのに比べて1/10程度にできたと言う。
〇高臨場感システム・・・スーパーハイビジョン

 上記はハイビジョンの4倍の解像度を持つ超高精細映像システムだそうです。これに22.2マルチチャンネルの音響システムをあわせたものを、デモ機として見せてもらいました。確かに大迫力で画像も鮮明、大勢の群集の一人一人の表情もわかるものでした。これらの技術手段として
  • 信号を異なる波長の光信号に分けて、1本の光ファイバーで伝送する装置
  • 映像、音を圧縮する方法
  • 21GHZ帯の衛星に送りそれを家庭で解凍、再生する装置など
 難易度の高い研究がされていますが、「TVの進む方向としてこれでよいのか・・?」と言う感じもありました。
 大画面、立体音響は映画の進んできた道です、TVは映画に追いつき、追い越せなのでしょうか?
 もっとも「ホンダ」でも、売りもしない「F-1」をやっているのは何故か? といわれた時「F-1は走る実験室 F-1で開発された技術はいつか量産車に反映される」でやってきたわけですから、同じことなのかもしれませんが・・・。

 これらの中で「高臨場感システムと人間科学」と言う研究があり、その中に
  • 大画面映像で懸念される、映像酔いについて検討しました。「振動する映像によって引き起される映像酔いの兆候が、心電(心臓の活動位置)の計測により検出可能であることが明らかになりました」 とありました。
 「酔いを防止する方法は見つかったのですか?」と聞きましたが「測定が出来るようになっただけで、防止方法までは到っていない」とのことでした。

 我々が「2輪ライディング シュミュレータ」を開発した時に同じような 映像酔い現象が出ました。この時も防止方法は見つかりませんでした。「全員が酔うわけではないからいいか・・」とその時は対策をしなかったのですが、今はどうなのでしょか? この研究は注目する必要があるかも知れません。

 このほかに コストダウンのテーマとか、番組制作を楽にするテーマなどがありました。
  • 実写映像とCGの映像を合成する番組において、電子シャッターと同期した間欠表示を行い出演者には見えないCGの画像やせりふなどを 出演者に見せる装置
  • 膨大な映像資料のなかから必要なものを「言葉」とか「類似画像」から検索する方法
  • 狭いスタジオの中で身軽に動けるハイビジョン用の無線カメラ
    ミリ 波を使い2つの送信アンテナと4つの受信アンテナを持った高画質な映像を伝送できるカメラ
  • 番組の質の推定技術
    番組を見ている人の「視線の動き」と「番組の解りやすさ」には相関があることがわかったので、視線だけでなく体の動き脳の活動など生体計測と組み合わせて、番組の評価技術を確立。
  • 人に優しい情報提示
    写真や図表などを音声や点字、触覚表示など視覚に障害のある人にもわかるように、リアルタイム変換を行なう技術。
  • フレキシブルディスプレイ:丸めて持ち運びが出来るディスプレイ
    高効率で発光する3色の燐光材用をプラスチックの基板に付着させる有機ELディスプレー、曲げに強い液晶ディスプレー、フィルム液晶ディスプレーなど5インチまで出来た。
放送以外にも使われている物として
  • 医療・科学の分野に使われている ほのかな光でも見える超高感度カメラとか
  • 瞬間の出来事を解析する 100万枚/秒の超高速度カメラ。
  • トリノオリンピックのスケートに使われたレールカメラ
 などの紹介がありました。

記:藤田 功(2006-06-13)