日産ゴーン改革に息切れ感、
高い目標が続くも日米欧で販売減に

 米ゼネラル・モーターズ(GM)やフォード・モーターの低迷に対し、好調が伝えられる日本の大手3社。だが、トヨタ自動車、ホンダが快走する陰で最近、日産自動車の失速が目立っている。

 顕著なのは販売動向だ。UBS証券によれば、米国の昨年10〜12月の自動車販売台数はトヨタ、ホンダがそれぞれ前年同期を約6%、2%上回ったのに対し、日産は約7%減だった。

 同社はビッグスリー同様、SUV(多目的スポーツ車)など利幅の大きいライトトラックを強化したが、ガソリン価格の高騰で売れ行きが鈍化。また新車投入の端境期なのも響いた。加えて欧州は3割減、日本も前年比2割弱減少。特に日本の12月の販売台数は前年比で26%減と落ち込んだ。 「新車を投入した日本でこの数字は満足できない」と強気のカルロス・ゴーン社長もさすがに苛立ちを見せる。

 さらなる効率経営へ。米国で決めた本社移転は、大胆な決断を評価する声がある一方で、余波も生じている。

 北米本社移転で社員脱藩も

 「日産から結構社員が移ってきている。隣のトヨタにも行っているようだ」。米国ホンダの幹部はこう明かす。

 日産は今年6月以降、ロサンゼルスの北米本社をスマーナ工場のあるテネシー州に移転する。その転勤を嫌った社員が、ロスで隣接する日系2社に流れているというのだ。

 米国での懸念は引っ越し騒ぎだけではない。品質面の課題もなお残る。

 2003年に稼働したキャントン工場(ミシシッピ州)では当初、米国での販売増を急ぐためセダンやミニバンなど5車種の一斉立ち上げに取り組み、結果として品質悪化を招いた。その後、日本から延べ200人を送り改善を実施、今ではラインを止めずに製品をそのまま流す直行率を「70%から90%にまで高めた」(日産幹部)という。

 とはいえ、米JDパワーが行う「初期品質調査」では、日産車は2005年、前年より大幅に点数を上げたものの、なお業界平均を下回った。今期膨らんだ消費者へのサービス保証費についても、「来期、翌年とさらに年100億円ずつ増えるだろう。完全回復はまだ先」(UBS証券)との見方もある。

 「今の日産は伸び切ったゴム。高いコミットメント(必達目標)に自縄自縛になっている」。ある外資系アナリストはこう話す。同社は「日産リバイバルプラン」でコスト構造にメスを入れ、「日産180」では世界100万台販売増を達成。業績は2005年3月期まで4期連続最高益を更新した。急回復の陰でゴーンマジックにも、そして現場にも息切れ感が漂っていると見る。

 最近の販売減も、100万台増を成し遂げた昨年9月までの反動が出たとする関係者は多い。日本では、法規制に対応する車種の仕様変更をわざと後にずらしてまで売り込んだという。

 高いコミットメント達成のため無理をする――。最近ではそんな傾向が目につく。実際、同社の北米流通在庫を見ると、決算対策で押し込むためか期末過ぎに大きく膨らむのが分かる。

 米国で日産が使うインセンティブ(販売奨励金)は1台約2000ドル(米オートデータ調べ、昨年12月時点)。ホンダの740ドル、トヨタの1000ドルに比べて高い。その結果、日産の今期の連結営業利益は約8700億円と、販売増の割には他社ほど伸びず、円安効果で辛うじて前期を上回る程度にとどまる見込みだ。

 北米で新車投入の攻勢

 もちろん、日産とて手をこまぬいているばかりではない。

 「今年9月から我々は最大の新車投入攻勢をかける」。デトロイトで取材に応じたゴーン氏は並々ならぬ自信を見せた。メキシコで生産する小型車バーサ(日本名ティーダ)や新型セントラの投入に加え、主力の中型セダン、アルティマを全面改良する。

 燃費の良い小型車や乗用車を拡充する一方、トヨタのハイブリッドシステムをアルティマに搭載。ほかにも燃費効率の良いCVT(無段変速機)を100万台に搭載する計画を打ち出し、環境対応で出遅れていたイメージの刷新を図る。販売面では米国の販売店と協力し、店舗の全面改装を進める構え。

 ただ、小型車や環境対応車は今より利幅が落ちる。販売テコ入れも、効果が出るまで時間が要る面は否めない。

 日産を完全復活させたゴーン氏の経営手腕は誰しも認めるところ。ただ現場を鼓舞しながら、高い目標をクリアし続ける手法はゴーン氏だからできる側面もある。日産がさらなる販売増を掲げた「バリューアッププラン」通り成長するには、いま一度社員のベクトルを合わせ、生産、販売など足元の体制を固める作業が欠かせないだろう。

 ある日産中堅幹部は吐露する。「ゴーンさんのすごさも利益重視も理解できる。だけど、社内は常に競争で目標が未達なら交代。そりゃきついですよ。緩急をつけたり、長い目で見た戦略も必要じゃないでしょうか」。(宮東 治彦)

nikkeibp.jp(2006-02-08)