敗軍の将、兵を語る
「勝ってたら首相も見えた」、堀江貴文氏

 衆院選で亀井静香氏に敗れたホリエモンが政治を語ること1時間。
 テレビ中継では伝えられない真意を選挙後、日経ビジネスだけにぶちまけた。亀井氏、自民党、民主党、有権者…。風雲児が見た舞台裏の全真相。

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 投票していただいた方には、「僕のことを信じてくれてありがとうございました。だけど結局、僕はダメでした。皆さんの期待に応えられず、すみませんでした」ということだけです。

 議員になるというのは、夢でも何でもなくて、改革を進めるための単なる1目標なんです。早くやりたいんですよ。でもやらせてくれないからね。まあ、いいんじゃないの。やらせたくないんだったら、それで。それが皆さんの審判なわけだから仕方がないよね。

 本当に政治家ってバカだな
 健闘したとか言うけど、選挙は票を取った取らないの問題じゃなくて、勝ち負け。負けちゃったら意味がないですから。まあ、組織がないと選挙ができないってことでしょ。

 投票率79%(広島6区)でも組織票で負けちゃうんだったら、僕はともかくとして政治をやる気があるヤツがやらなくなっちゃうと思うんですよ。そしたら、やっぱり優秀な政治家は出てこないよね。だって選挙は面倒くさいもん。こんなことやんないよ、普通。

 でも能力あるヤツがやらなくなる世の中を作っているのは組織票で入れちゃう国民なんだから、しょうがないよね。組織票がこれだけ幅利かせてる。それが政治の現実ですよ。

 議員になろうと思ったのは、ふるさとが荒廃してしまうことに対する危機感からですね。日本は、自分の出身地だし、すごく好きなんです。そこがおかしくなる事態だけは避けなければいけないなと。

 広島を選んだのは、亀ちゃん(亀井静香氏)に勝ちたいというのが、まず大きい。彼は、古い政治の象徴みたいな人じゃないですか。

 そういう既得権益を守ろうとする人は、本当は自民党内にまだいると思いますよ。でも、みんな死んだふりしてるからね。森喜朗さんとか、加藤紘一さんとか、山崎拓さんとか、多分みんなそうだろうと思うんだけど。今回、郵政民営化に反対しなかった割と要領のいい人たちがまだ残っている。

 だから、そういう人たちを黙らせたいというか、もう政治の世界から消えてもらいたいという思いがあって、衆院選に出馬することにしたんです。

 でも、まあ、いいんじゃないんですか。広島6区は例外で、全国的に見れば与党が320議席超という形で、小泉(純一郎自民党総裁)さんが圧勝しちゃったから。古い人たちも文句を言えなくなるという意味で言うと、まあ、良かったのかなと。とりあえずはうまくいきそうだから、結局、僕が出るまでもなかったのかもしれないね。

 ただ、改革路線はうまくいってるんだけれども、若返りは結局果たせませんでした。それは問題だよね。やっぱりほかの国に比べると、議員の年齢が高めかなと。せいぜい30代、40代が立つべきだと僕は思うんですよ。あわよくば世代交代までやれればと思ったんですけど、これは当分、世代交代はないなっていう感じですね。

 政治の世界で若いと言われたって、企業の世界じゃ若くも何ともないんだから。それは政治家同士の相対比較で若いだけです。政治は年寄りじゃないとできないっていうのは、固定概念でしかない。若くて優秀なヤツはどんどん出てきていますからね。

 この若返りと既得権益層を一掃するという役割が一気に進められるのが、広島だったということです。そう考えると、今回負けてしまったのは、ちょっと辛いですよね。

 最終的に自民党からの公認を得られなかったのは、社長を辞めろとか訳の分からないことを言い出すので、最後はふざけんなよという話になったんです。本当に政治家ってバカだなと思ったんだけど。

 最初は、千葉や大阪の、とにかく都市部で勝てそうなところがいっぱいあって、自民党の武部(勤幹事長)さんとかと「どこから出る?」みたいな話だったんです。比例で重複立候補という話も出てたけど、民主党の岡田(克也代表)さんと会ったのが気に入らなかったみたいで、途中から、天秤にかけてるとか言われるようになって。

 民主党の話だって聞きたいじゃないですか。一応、今までの改革のイメージだと民主党なわけで、僕のカラーも民主党のイメージなんですよね。だから岡田さんが郵政民営化賛成と言ってくれるんだったら民主党でもいいかなと思っていたわけです。

 僕、岡田さんに「ぶっちゃけた話、何をやりたいんですか」と聞いたんですよ。彼は「政権交代です」と言うから、「だったら郵政民営化賛成と言わないと絶対に政権交代できませんよ」って言ったんですけど、それは無理だと。その時に、「ダメだ、この人」と思いましたよ。僕、岡田さんに「負けますよ」と言いましたもん。

 まあ、こういう岡田さんと会ったという情報に加えて、あとは僕が自民党に入ってくることに対して、やっぱり危機感を持っている人たちが反発するわけです。堀江が入って何か変な影響があったら嫌だとか、反対のファクスがものすごくたくさん党本部に届いているとか、いろいろな理屈をこねられた。とにかく男の世界というのは嫉妬の嵐なんですよ。飯島(勲首相秘書官)さんが結構言ってた。

 飯島さんにキレかかった
 結局、公認するには2つ条件があって、比例区の名簿は普通の順位で、要は優先しないと。あとは社長を辞めるのが条件だと言ったからね。「国政の方が崇高だ」とか「ライブドアごとき辞めてしまえ」ぐらいの勢いで。正気の沙汰じゃないですよ。

 昔のプライベートカンパニー、オーナー企業の社長でもやってるのかというような意識だよね。分かっていない。何か感覚が古いんですよ。だから僕、3時間ぐらい飯島さんとかとバトって、怒りまくってキレかかってたからね。最後は、じゃあもういいよと。「勝手に無所属で出ます」となったんです。

 自民党の竹中(平蔵)さんや武部さんが応援に来てくれたけど、大仁田(厚)さん以外は全部個人的なつながりですよ。自民党の有力議員たちは必ずしも応援してくれてるわけじゃない。大仁田さんは、小泉さんが行ってこいという感じで、執行部は陰ながら応援してくれたようでしたけどね。

 選挙戦の戦い方は、鞄(資金)、看板(知名度)、地盤(組織)という意味で言うと、看板と鞄はある。看板をどうやって地盤に変えていくのかっていう作業をしたんですよ。最初に握手や写真撮影などで認知してもらい、次に実際にミニ集会でお話を聞いてもらい納得をしてもらって、最後もう1回大集会に来てもらい念を押していく流れで、票の固定化作業をやる感じです。

 ただ、今回は全然カネ使ってないですけどね。実質、選挙費用は宿泊費等々入れても法定費用の2400万円までは全然いかなくて、2000万かかってないくらい。スタッフは全員ボランティアだし、メシ代出さないし、選挙カーなどのクルマ代も、ほとんどボランティアが持ってくれてガス代も出してないくらいの勢いですから。

 ライブドアの社長業への影響は全くなかったですね。移動時間中に、(9月14日にライブドアが買収した中古車売買の)ジャック・ホールディングスの資料とか見てましたから。ブログを書かなくてよくなった分、書けなかったんですけどね、その分、仕事の時間ができました。

 まあ、今回は精いっぱいやったよ。これ以上のことはもう無理だよ。だって(亀井氏の地盤の中心である)庄原市で、どうやって人を集めるのっていう話じゃない。組織だってゼロからどんどん人づてで作っていったけど、やっぱり庄原は弱かったからね。

 亀井さんの地盤は、広くて、人口密集度が低いんですよ。その中にある数少ないスーパーにも、まず入れないんですよね。亀井さんの影響力があるのか何なのか知らないですけど、断られるんで。宣伝車で呼び掛けすると、普通、団地とかであれば200〜300人ぐらいすぐ集まるんですけど、全然です。集落の入り口に監視人が立っていましたからね。監視があるみたいですよ。

 だから、あいつはよそ者だという感じで、会って話すら聞いてもらえない状況でした。亀ちゃんも人の悪口しか言わないからさ。「堀江はお金で人の心を買えると思っているんだ」とか、「家賃300万円のところに住んでいる人間に何が分かる」とか、ほとんどそういう話ばかりですからね。ナンセンスでしょう。

 そんなに離されないんじゃないかと思っていたけど、結局、庄原市などの県北部は惨敗です。三原、尾道などの人口密度が比較的高い沿岸部ほど票が伸びなかった。沿岸部も、もう少し伸びると思ったんだけどね。

“草場の陰から”首相見守る
 勝ったら、それは相当すごいことだよ。自民党内のほかの人たちが僕に一目置くから。文句は言えないですよ。だから次の小泉さん後のことをちゃんと考えられたと思いますよ。

 まあ自民党に行きますよ。そうじゃないと首相にはなれませんからね。それは当然考えていた。そんなにいきなり総裁選で勝てるかどうか分からないよ。小泉さんだって3回もやっているんだからさ。だけど、20人の推薦を受ければ総裁選に立候補できるわけだから、その後のやり方次第では、もしかしたらうまくいったかもしれない。

 でも負けたから、まあ、絵に描いた餅だよね、本当。今回勝てれば、首相も見えたかなと思ったんですけど。自分的には今回がラストチャンスだったかもしれない。50歳で総理になってもしょうがねえなっていうのがあるからさ、自分的には。

 6区で次の総選挙といったって、4年後だしね。今回は、亀ちゃんに勝ってこそ意味があった。亀ちゃんをたたき落とせれば、それはもう自民党内で「あいつはすげえ」という話になるわけじゃない。4年後の衆院選に出て通るのは全然できると思いますけど、通ったところで影響力がないからね。だって自民党の1年生議員でしょう。丁稚奉公10年間コースだよね。

 だから4年後、実際に出るか出ないかは分からないけど、広島6区で地道に何かやっていこうとは思ってます。地元のポータル(玄関)サイトを作るとか、そういう地味なこと。

 ただ、それは選挙とは関係なくやっていくことで、8万票くれた皆さんへの恩返し。ここに縁ができたからやるだけで、選挙と関連づけられたくはない。そんな汚いことやんないよ俺は。

 嫌らしいじゃない。選挙活動のために地元にいますみたいな。結局、おまえらはカネが欲しいのかよ、みたいになるのもイヤな話でしょ。地元の利益誘導型の政治って結局そういうことだからさ。亀ちゃんは選挙に受かりたいためにやるかもしれないけど、俺は関係ない。そんなことやるんだったら、受からなくたっていいよ。

 小泉さんは、もう俺なんかと会ってくれないんじゃないの。だって、負けた兵に興味はないでしょう。別に会ったところで何も変わるわけじゃないし、まあ、頑張ってくださいよと。

 また、“草葉の陰から”応援しています、みたいな感じですよ。


堀江 貴文(ほりえ・たかふみ)氏
1972年10月福岡県生まれ。32歳。96年東京大学文学部在学中にオン・ザ・エッヂを設立、2004年にライブドアに社名変更、社長兼最高経営責任者に就任。今年ニッポン放送株の争奪戦で話題を呼ぶ。日経ビジネス「敗軍の将、兵を語る」への登場は、球団買収に失敗した件についての昨年11月15日号に続き2回目。

日経ビジネス(2005-09-20)