郵政改革 民営化の灯を消すな
【朝日新聞 社説】

 郵政民営化法案が参議院で否決され、総選挙に突入する。自民党内の造反や、民主党など野党の反対で廃案となったことは、残念というほかない。

 郵政民営化は、郵政公社という26万人が働く国営事業体の経営問題にとどまらない。財政や金融を健全な形にする。特殊法人王国に切り込む。社会に根付く官尊民卑から決別する。そうした大がかりな改革の突破口でもあった。

 郵貯や簡保に流れ込んだ巨額の資金が国債を買い支えることで、国の財政を緩ませていた。特殊法人の廃止や民営化を進めるならば、資金の入り口を国営の形で残しておく理由もなくなる。公務員を減らすのは行財政改革に欠かせない。

 重い意味があるからこそ、私たちは法案の成立を求めてきた。廃案、総選挙で道筋は不透明になったが、郵政改革の必要性はまったく変わらない。選挙結果がどうあれ、民営化の灯を消すことは許されないと考える。

 廃案を受けた朝日新聞の世論調査でも、「民営化をめざすべきだ」との答えが「やめるべきだ」を大きく上回った。

 法案の否決で最もショックを受けたのは、公社の経営陣だった。業務にさまざまな制約のある現状では苦しくなるのが分かっているからだ。

 低金利で集めたお金を国債などに投資する単純な運用で収益を上げてきたが、やがて通用しなくなる。インターネットの普及や民間との競争のなかで、郵便事業も「じり貧」だ。

 反対派の最大の攻撃材料は「身近な郵便局がなくなる」点だった。だが、これは経営の実態に目をつぶった議論だ。

 独立採算の郵政事業は、今のところ税金を使っていないが、公社ではやがて破綻(はたん)しかねない。日本の財政は先進国で最悪の状況にある。そのときになって、税金を投ずることに世論の理解が得られるだろうか。公社のままでは、民営事業よりも早く行き詰まり、過疎地も含めてサービスが低下しかねないのだ。

 全国特定郵便局長会の反対運動に、公社の幹部が「自分たちの首を絞めている」と嘆いていたのは、このことを雄弁に物語っている。

 だからといって、苦境を打開したい公社が、政治力を駆使して業務を野放図に広げることは、別の深刻な問題が生じる。官業は民業の補完に徹するのが鉄則だ。税制などで優遇されている国営事業が、民業の圧迫をするような「いいとこどり」は許されない。

 総選挙を前にして、何とも気になるのが民主党の姿勢だ。「当面、国営のまま郵貯・簡保を縮小する」と主張しているが、先のみえない公社形態を評価し、経営が悪化したときに雇用をどうするかも示していない。

 将来の民営化までは否定していないが、政権を取りたいのなら、より説得力のある構想を示すべきだ。こと郵政問題に関しては、「小泉自民党」より見劣りしている。

朝日新聞 朝刊(2005-08-10)