インド:ホンダ工場大規模争議
 労使関係がリスク、日本企業投資に影響

 ホンダが全額出資するインドの子会社「ホンダモーターサイクルアンドスクーターインディア」の従業員を含む労働者と機動隊が25、26日、ニューデリー郊外で衝突し、多数の負傷者が出た。ホンダは衝撃を受け、情報収集を急いでいる。高度成長を続けるインドには、ホンダ以外にも製造業を中心に多くの日本企業が進出しているが、イメージ悪化で投資意欲が今後そがれる恐れも出てきた。不安定な労使関係がインドでの事業拡大を阻むリスク要因に急浮上している。【山本明彦、清水憲司】

 ホンダは84年に二輪車事業で現地企業と合弁会社を設立し、インドに進出。04年はインドで二輪車は前年比38・5%増の286万台、乗用車は同約2・2倍の3万5125台を販売した。経済成長に合わせて販売台数が急激に伸びており、有力拠点に位置づけている。
 ホンダによると、今回の騒動は、同社の二輪車工場の従業員を含む労働者の集団が25日、同社現地工場から約15キロ離れた公園で集会を開き、地元有力者の自宅などに投石、機動隊と衝突した。集会の目的や経緯、ホンダとの関連は不明だが、ホンダの一部従業員は、当局から労働組合結成の申請が認められていないことに不満を抱えていた模様で、外部の活動家などに扇動された可能性もある。インドのパティル内相によると26日までの負傷者はホンダ従業員92人を含む約130人。計550人が入院したとの現地報道もある。
 工場では昨年末から、従業員が賃上げや福利厚生面での待遇改善を求め、会社側と交渉が行われていた。こう着状態に入った5月以降は一部の従業員が出社を拒み、二輪車4万台分の生産が遅れた。交渉はおおむね従業員の主張に沿う形で決着し、生産遅れも年内にはカバーできる見通しだっただけに、同社は「労使交渉を収拾する直前だったのだが」(青木哲副社長)と戸惑いを隠さない。今回の騒動で、ホンダは「業績には影響はない」(同副社長)とするが、今後事態が悪化することになれば、各社のインド戦略は軌道修正を迫られる可能性も出てきた。

 日本企業投資に影響
 インドに進出した日本企業は今年4月現在で298社。年率6%を超える経済成長に加え、人口10億人という巨大市場の将来性が魅力だ。乗用車の国内販売台数は04年度に初めて100万台を突破。オートバイなどの二輪車でも中国に次ぐ世界2位の販売台数を誇る。携帯電話の加入台数も5000万台と、これも中国に次ぐ市場に成長した。
 一部の自動車や家電メーカーは80年代から、インドでの生産を始めたが、進出が本格化したのは、インド政府が開放政策に転換した91年以降だ。規制緩和がスムーズに進まなかったこともあり、日本からの直接投資は増減を繰り返してきた。
 ダイハツ工業は07年にも小型車を現地生産する方針を表明し、ホンダも乗用車の生産能力を3万台から年内に5万台に増強する計画を持つなど、投資は加速しつつある。

 賃上げ要求高まり
 今回の労働争議は、経済発展を受けて賃上げ要求が高まった結果と言える。もともとインドでは、独立運動と労働運動の結びつきが強いという側面もある。労組関係者が政治家に転じるケースも多い。労働運動は強力で、82年に日本企業としていち早く進出したスズキでも大幅な賃上げ要求が続き、00年には数カ月に及ぶストライキが行われた。トヨタでも01年から2年連続でストライキが発生した。欧米企業でもストライキが頻発。なかには2倍の賃上げを要求された企業もあるという。
 日本貿易振興機構は「騒乱が各地に飛び火することになれば、インドにやっと目を向け始めた日本企業に、進出を思いとどまらせる可能性がある」と懸念。長期化するようだと、インドでの国内生産から、東南アジア諸国からの輸出に方針転換するケースも否定できないという。

毎日新聞:東京朝刊(2005-07-28)