中国での近況

 皆さんお元気でしょうか。渡辺輝興です。

 定年後、まもなく5年になりますが、マレーシア、台湾に続いて、今、中国で元気に 仕事をしています。定年後の生き甲斐活動として、ボランタリープロジェクトという 情報交換グループを作りましたが、その後の情報活動が尻切れトンボの状態になって しまい、申し訳なく思っています。時々は情報を提供するように努めます。中国での 生活も1年近くになりますので、近況をお伝えします。

〔仕事〕
 昨年の7月から中国での熱処理事業拡大の仕事をしています。私の立場は総経理 (雇われ社長)で、事業主は台湾人、事業拠点は中国の各地、といった構図です。事 業主は、私が技術顧問をしている鞄本テクノの台湾での顧客です。既存の熱処理工 場が蘇州と深センにありますが、現在、昆山(上海の近く)に新工場を建設中で、ま もなく稼動を開始します。その後、南京にも工場建設の予定です。この会社は日本テ クノと技術提携し、炉の製造販売と熱処理加工を事業としています。今、私に求めら れていることは、日本の技術(ハード、ソフト)と管理システムを導入して、定着さ せ、中国に進出している日本企業の顧客を獲得することです。幸いなことに、過去の 経験が生きて、仕事でのストレスもなく楽しく仕事をしています。
 工場の運営で困ることは、従業員の退職率です。年間50〜80%が退職します。 当初は、将来のためにと思い、講習会や日常業務で指導に心がけていましたが、突然 退職するため、将来のための指導は止めて、今日の仕事に関係することだけ指導する ようになってしまいました。これでは一般従業員の人材育成は不可能です。結局、事 業者は人材を親類、縁者で固めることになります。
 ところで、我社の事業主は熱処理だけでなく、工業用刃具、アパレル製品、電動工 具などの事業を手掛けていて、日本企業との合弁または誘致(自社工場の賃貸)を計 画しています。中国での事業、就業について興味、情報がありましたらご連絡くださ い。

〔生活〕
 今、蘇州の新工業区に隣接する商業街のマンションに住んでいます。中国での勤務 と日本テクノの顧問の仕事は3週間/月、休日は日本へ帰ってのんびりしているか、 妻と旅行に出かけています。中国には名所旧跡が多く、観光旅行も楽しいものです。 また、日本文化のルーツとして見ていくと、新しい発見が多くあります。蘇州へは5 年前に観光旅行で来たことがありますが、当時では想像もつかないほどの発展振り で、高層ビルが立ち並び、日本で想像する蘇州のイメージとはかなりかけ離れていま す。蘇州だけで日本企業200社、駐在員1500人。日本人向け歓楽街が出来て、 日本食、カラオケ、スナック、200店が密集しています。日本人学校も開校していま す。

〔世界の工場〕
 上海とその近郊、昆山、蘇州、無錫、等の工業団地の規模の大きさには驚きです。 同じように広州、深セン地区も一大工業地区になっています。至る所で、建設工事、 道路工事が行われ、現在、主要都市間はほとんど高速道で結ばれていますが、更にオ リンピック、万博までに8万キロの高速道が建設されるようです。中国は国土面積日 本の26倍、人口10倍、もし一人当たりのGDPが日本の1/2になったとしたら、経済力 は日本の5倍。それほど遠い将来ではないでしょう。私の感じるところ、あと5年から 10年で、日本と同じ国力を持った地域が4、5箇所できるかもしれません。上海地 区、広州地区、北京地区、重慶地区など。中国にはまだ世界的に知られたブランド メーカーが無いようです。家電、パソコン、車など、これからでしょう。日本は昭和 30年代にソニーやホンダが世界に知られ始めました。今、中国はそのような時代で す。

〔庶民の生活〕
 産業の発展振りが、日本の昭和30年代の感じとすれば、庶民の生活ぶりも当時の日 本と似ています。家の中には物はあまりなく、薄暗い電球で生活している。我社には 43人の中国人が働いていますが、最高の給料は通訳者と課長で5万円、現場作業者1万 円、12時間、休日なしで働いて2万円。お金がほしくて休日なしで働く者も多い。通 勤手段は自転車か電動自転車。

〔共産主義社会〕
 中国の凄さを感じるのは政治。都市計画、公共施設、道路など、計画が決まったら 即実行。住民は反対運動が出来ません。三峡ダムの建設で、120万人を移住させたと 聞いています。日本の成田空港のようなことは起こりません。従って、お金、エネル ギー、資源があれば、国家建設のスピードはものすごく速い。

〔中華思想〕
 中国は4千年の歴史があって、中華、中国、という国名は世界の中心という意味が あります。中国人の基本的な思想、心情の基盤は、「中国は何千年にも渡って文化、 産業の世界的主導者であった。現在、たまたま一時、日本や欧米の後塵を拝している が、それは時間の問題」ということに根ざしています。確かにそうかもしれません。 現役時代、30年以上前、四川省嘉稜へ出張したことがありました。聞いた話です が、中国人が言うには、「何千年にも渡って、中国は日本に色々なことを只で教えて きた、バイクの作り方ぐらい只で教えてもらっても何も悪いことは無い。」当時のホ ンダの技術指導料は1日200ドル/人、それを100ドルにおまけした時の話。考えてみ れば、弥生時代から江戸時代まで文化、産業のほとんどは中国からの伝来に違いあり ません。典型的なのは日本の漢字が中国製であること。中国人と付き合うに当って、 こうした中国人の心情を無視することは出来ません。中国の漢字は略式化されて、日 本人にとって分かりづらくなっています。このことについて、日本人でとやかく言う 人がいますが、全くのナンセンスです。漢字は中国製であることを理解していない発 言です。中国人の心の奥底はわかりませんので、中国と日本を比較した話は極力しな いようにしています。

〔ニセ札〕
 私がおつりでもらった50元(650円)札がニセモノでした。他の店での買い物 の時、50元札を出したら、ニセモノだから受け取らないという。会社でみんなに見 てもらったら、やはり偽札だという。透かしがあり、紫外線で浮き出る数字もある。 印刷の浮き上がりと紙質が少しおかしい。日本では自分のところに偽札が回ってくる など確率的に信じられないので、試しに銀行へ持っていってもらい、判定してもらい ました。会社の女の子が帰ってきて、偽札につき没収しますという受取書をくれまし た。みんなに聞いたら、お釣りをもらうとき、怪しいものは受け取らない。故に、今 までに偽札を受け取ったことは無い、という。ということは、店は偽札と分かってい て私におつりとしてくれたことになる。腹立たしいが、騙されたほうが悪い、が常識 かもしれません。結論は自己防衛しかありません。銀行も警察も没収するだけで、調 査も何もしないようです。当然ニュースにもなりません。

〔反日デモ〕
 学生運動は、日本の昔もそうであったように、学生が社会のエリートと自他共に認 めるときに起きるようです。学生の単なるパフォーマンスに過ぎないでしょう。私も 学生のとき安保反対でデモに参加しましたが、安保とは何かはほとんど 知リませんでした。暇だ、誘われたから、参加したにすぎません。共産主義、一党独 裁とはいえ中国政府の意思決定には時間がかかります。天安門事件のときもそうでし た。一人独裁ではないので、合議の時間が必要。結局、デモは全て禁止することにな りました。日中の政治問題は我々庶民には理解の範囲を超えています。靖国神社の参 拝、相手がダメというなら、小泉さんやめてあげれば、と思いますが、簡単ではな い。政治家は何を考えているのか分かりません。いずれにしても、私のように中国 人、台湾人と同じ職場で仕事をしている庶民が困るようなことになってほしくない。 実害はあまりありませんが、精神的、気分的に良くありません。日本人が大勢集まる のは良くないということで、楽しみにしていた蘇州の日本人会ゴルフコンペは延期に なりました。デモのことは、新聞もテレビも中国では一切報道されません。

記:渡辺 輝興(2005-05-17)