世界で勝てない中国自動車産業、好調の裏に“GDPのトリック”

 「グローバル企業は合弁・合作企業を通じ、中国乗用車市場の90%以上を占有している」――。2004年末、商務部産業損害調査局と中国自動車技術研究センターが共同で発表した「中国自動車産業の国際競争力に関する評価研究」は、こう報告している。

 2年間の調査研究に基づく報告書は「中国自動車産業の国際競争力はきわめて弱く、米国、日本、ドイツ、韓国などの自動車大国に相当の後れをとっている」と結論づけた。

 いったいどのくらい差があるのか。2004年3月5日に行われた同報告の中期評価審議会によると、中国の自動車産業の総合競争力は、米国の41.7%、日本の42.4%、ドイツの47.3%、韓国の61.6%だという。

 中国自動車技術研究センター・自動車技術情報研究所の技師長で、自動車産業政策研究室の責任者を務める黄永和氏は「時間の制約もあって、今回の研究は資本属性ではなく、属地主義によってまとめられた。つまり、中国国内に設立された企業はすべて中国の企業とみなすGDP原則となっている」といささか残念そうに語った。

 GDPは製造地原則、一方GNPは製造者原則に従い、所得の帰属が問題となる。GNPは財を意味し、GDPは就業に直接関連するのだ。

まだ弱い国際競争力

「自動車産業の国際競争力」に関する研究は、2001年に中国自動車技術研究センターが提唱した。2003年前半から商務部と共同で進められ、2004年末に「中国自動車産業の国際競争力に関する評価研究」がまとまった。

 黄永和氏は「当初は中国自動車産業の競争力の位置づけを調べ、一つの結論を出し、分析を通じて、政府の関連政策制定の参考とすることを想定していた」と説明する。

 そして「現在のところ、中国自動車産業の国際競争力はまだまだ弱い」と、黄氏は記者に率直に述べた。

 報告は、産業保護、外資利用、市場規模、自動車部品工業、研究開発の五つの要素から、中国自動車産業に国際競争力がない原因を分析している。

 「世界の自動車企業グループの生産規模は軒並み200万台以上で、世界最大の自動車メーカーであるGMの世界生産規模は800万台を超える」。

 これに対し、中国最大の自動車企業グループである一汽集団の生産台数は、ようやく100万台(主に「解放」商用車、「VW」乗用車、「トヨタ」乗用車、「シャレード」乗用車の四大系列)に達したところであり、海外大手自動車メーカーとの格差は非常に大きい。

 報告によると、市場ニーズも自動車メーカーの発展と成長を制約する要因となっている。「中国国産自動車の95%以上は国内市場向けであるため、自動車工業の発展は国内市場に依存せざるをえない。だが国内市場規模は絶対量が少なく、長期的な成長も緩慢なため、自動車工業の発展を支えるまでに至っていない。これが中国自動車産業が国際競争力を欠く原因の一つとなっている」。

 中国自動車市場の需要量を見ると、1990年はわずか54万台だったが、2000年には208万台に達した。ここ数年、絶対量も増え、成長速度も増し、2003年に450万台を突破。2004年の全国自動車販売台数は計458万台(自動車工業協会1-11月度統計による)となった。しかし、これも米GMの世界販売台数の半分強にすぎない。

 「自動車産業の発展に比べて、自動車消費環境が長期にわたって立ち遅れていることも、国内に十分な市場規模が育たない要因の一つである」と報告は分析している。

 自動車の研究開発においても、企業の研究開発能力が弱いことは明白である。

 IMD(国際経営開発研究所)の「2003年版世界競争力年鑑」によると、2002年にGDP総額が1兆ドルを超えた7カ国(米国、日本、ドイツ、イギリス、フランス、中国、イタリア)のうち、中国以外の6カ国は「国際競争力のある自動車工業」を持つか、または企業が優れた工業技術を持つ国である。

 一方、「中国自動車工業年鑑」の統計では、2002年の中国自動車産業の研究開発費は86億2000万元で、自動車工業販売総額に占める比率は1.45%にすぎない。海外の主要グローバル企業では通常5%、中には10%を研究開発費として投入している企業もある。「研究開発費投入額の格差は、科学研究能力だけでなく、製品や品質レベルにも反映される」。

 「近年、各企業とも研究開発投資を強化しているが、なお海外自動車メーカーを下回っている」と黄氏は言う。

「保護政策」から「競争政策」へ

 「この研究課題が提唱された背景には、中国のWTO加盟がある」――。黄永和氏は「市場が完全に開放されれば、中国自動車産業は大きな打撃を受ける」と記者に話した。 研究報告の現実的な意義は、政府に「保護政策」から「競争政策」への移行を促し、「外敵」が参入してくる前に自らを強大化することにある。

 「現在の中国自動車産業の関連政策は、国内産業を過度に保護しており、特に大企業に対する特別優遇により、適切な競争が行われていない」と黄氏は話す。

 産業保護政策が、初期段階で中国自動車工業の発展を促す効果を持っていたことは否定できないが、後になってマイナスの影響を与えた。

 報告によると、産業保護によって国内自動車市場の競争が不十分となり、国内自動車企業に超過利潤を生じさせた。(2002年における中国主要乗用車メーカーの平均販売利益は16.66%で、海外メーカーの平均値5%をはるかに上回る)

 中国自動車技術研究センターの王再祥氏も記者の取材に対し、次のように語った。「中国自動車産業のバブル現象は深刻だが、不動産バブルとは状況が異なる。不動産市場に生じたバブルは、需給の不均衡によるもので、人為的な投機売買が原因だ。一方、自動車市場の問題は根が深く、長期にわたる政策主導が招いた構造的なものだ。自動車は高利潤を追求し、業界参入のハードルが高くなり、社会資金が流入せず、独占状態を形成している。現在、大衆車の利益は合理的水準となったが、高級車では、なお6−10万元もの利益幅がある」。

 報告はさらに、「産業保護によって生まれる超過利潤は、自動車産業への乱入を生み、各地方・各部門を刺激し、条件を顧みずに自動車産業の超過利潤を求めて、盲目的に工場建設へ投資するという事態を招いた。また、改革開放から続く中国自動車産業の『分散』『乱立』『劣悪』に拍車がかかり、産業の組織構造をさらに悪化させる原因となり、地方保護主義の氾濫や、全国統一の自動車市場形成を難しくする原因にもなった」と分析する。

 このため、「公平かつ透明な経済環境を創造し、産業競争力の向上を基調とする競争政策で競争を促すことを、中国自動車産業の基本政策としなければならない」と提案している。 (薛凌=21世紀経済報道、北京発)

日経BP社(2005-02-04)